衝撃的事故に凡庸な各社説の中でシートベルト着用説き有益な毎日

◆過去事例でお茶濁す

 死者15人(運転手2人を含む)、重軽傷者26人という大惨事となった今月15日未明に長野県軽井沢町で起きたスキーツアーのバス転落事故から、約2週間になろうとしている。その間、運行バス会社のずさんな安全管理と法令違反の運行実態、運転手の大型バス不慣れと不可解なギア操作、制限速度を越えたバスの高速走行などの異常が明らかになってきたが、当局の捜査、調査による事故原因の究明までには至っていない。

 その究明により事故の再発防止を徹底して図り安全で快適な国内旅行を提供すべきことは、来日する観光外国人が急増し、2020年東京五輪に向かいさらに急増が見込まれる中で、わが国にとっては喫緊の課題と言わなければならない。各紙は事故の第一報記事が掲載された15日夕刊から半日後の翌16日朝刊から、事故についての論調を掲げたが、そのあたりをどのように突っ込んで実のある社論を展開したのかをウォッチしたい。

 各紙論調は読売、毎日、日経、産経(主張)が16日に社説を掲載し、続いて17日に小紙、19日に朝日と続いた。運転手を除く死者が全員、将来に無限の可能性を持つ若い学生であったことなど事故の衝撃だけが大きな波紋を広げる一方で、当局による事故原因の解明にはなお時間が必要で分かっていることは多くない。そんな中でも、何かを書かなければならないのは論説委員の辛いところである。

 分かっていることが多くなければ、ことを断定するのに慎重になり、確定している過去の事例を持ち出してお茶を濁す他ない。そんな事情は分かっていても、衝撃的な事故を論じる社説の方は各紙とも工夫がなく、いかにも凡庸であった。

◆役に立つ社説にせよ

 「安全対策は万全だったのか。徹底解明し、再発防止につなげねばならない」(読売)、「関係機関は、安全体制を点検し、再発防止につなげなければならない」(毎日)、「法令違反の有無にとどまらず、事故につながる要因がどこにあったのかを徹底的に解明する必要がある」(日経)、「再発防止のためにまず必要なのは事故原因の究明と厳罰である」(産経)。「安全運行のためのルールは守られていたのか。徹底的に究明し、再発防止につなげなければならない」(小紙)。これらの表現は今回の事故に直面しなくても書ける、事故一般に当てはめられる常套句「徹底解明」や「再発防止」などを駆使しただけとも言える。原因の「徹底解明」や事故の「再発防止」は何も強調する必要はなく当たり前のことである。

 朝日に、そうした常套句に頼る表現が見当たらないのは、社説掲載が遅れ時間的余裕があったからだろう。バス会社のずさんな運行管理が次々と明らかになったあとだけに「(問題を防ぐはずの国交省の監査は)チェック機能がゆるい問題は明らかだ。/たとえば、ツアーで使われるバス会社名やその処分歴などについて、もっと公開し、消費者の目を監視役に」し、悪質な業者を退場させる工夫などを提言して違いを示した。拙速という言葉があり、早いばかりが能ではないと言いた気である。

 さて、惨事となった交通事故を論じるのに、常套句を使っているからいけないと言っているわけではない。空疎でつまらない内容の常套句は遠慮気味に使い、情報が少ないのでそれでは困ると言うのなら、データがあり普遍的に役立つことが明らかなキャンペーン用語「シートベルトの着用」を活用して、役に立つ内容の社説とすべきだ。

 今回の事故の犠牲者の大半がシートベルトを着用していなかった可能性が高い。警察庁のデータでは自動車後部座席でのシートベルト不着用者の事故死者数は、着用者の約3倍に上ることが分かっているからである。

◆踏み込んでいた毎日

 この点について有益な言及をしたのは小紙、読売、毎日の3紙である。小紙は「乗客によると、運転手からシートベルト着用の指示はなかった。着用が徹底されていなかった可能性もある」、読売は「崖下と道路の高低差は3㍍だが、被害は甚大だった。シートベルトの着用が乗客に徹底されていなかった可能性もある」と指摘。

 毎日はさらに踏み込んで強調したことを評価したい。「被害者の多くが頭部を損傷していた。いざという時、被害を最小化する方策についても検討が必要ではないか。シートベルトを着用するなど乗客の対応も問われる」と論じたのである。

(堀本和博)