宜野湾市長選情勢分析で志村氏優位を印象づけようとした琉球新報

◆知事共々告発される

 「公明かつ適正に行われることを確保し、もつて民主政治の健全な発達を期する」

 これは公職選挙法の一節だ(第1条)。選挙が公正でなければ民主政治は成り立たない。当たり前の話だが、沖縄ではかつて社民党の国会議員が「公選法特区」と称し違法活動を奨励した前科がある。これは語り草で地元紙、琉球新報のネットを開くと、今もニュースランキングの上位にランクされている(24日現在)。

 それは2010年の県知事選でのこと。宜野湾市などを選挙区とする照屋寛徳衆院議員が応援のため来県した社民党員らに「沖縄は『公職選挙法特区』。公選法を守ろうという人は最終便で帰っていい。腹を据えてやってもらいたい」「もし逮捕されたら、私ではなく、弁護士の福島党首を呼んでください」と述べたもので、不適切との批判を招いた(同紙10年10月31日)。

 が、馬の耳に念仏、いや革新陣営に公選法。保守現職の佐喜真淳氏と革新新人の志村恵一郎氏の一騎打ちとなった宜野湾市長選で、志村氏が支援を受ける翁長雄志知事と公選法が禁じる戸別訪問をしていたと指摘する動画がネット上に拡散し、県内の民間選挙監視団体の男性が志村、翁長両氏に対する告発状を県警に提出したという(産経23日付)。ネットを見ると、なるほど“堂々”たる戸別訪問だ。

◆届け出順報道を覆す

 新聞の報道・論評について公選法は虚偽の事項を記載したり事実を歪曲したりし、「表現の自由を濫用して選挙の公正を害してはならない」としている(148条)。それで選挙が公示されると、新聞は届け出順で立候補者を記す。宜野湾市長選では佐喜真氏、志村氏の順だった。公示を伝える沖縄タイムスは「普天間返還 手法問う 佐喜真・志村氏が立候補」、琉球新報は「佐喜真、志村氏が対決 普天間が最大争点」(18日付)とする。妥当な記述だ。

 ところが、翌19日付の琉球新報の情報分析記事は違っていた。「志村、佐喜真氏が接戦」と順番を逆転させている。記事は有権者への電話世論調査と「本紙の取材を加味して情勢を分析」した結果、志村氏と佐喜真氏が「横一線で並ぶ接戦を繰り広げている」とし、回答者の8割が投票先を決め、残り2割の無党派や若年層の掘り起こしが勝敗の鍵を握るとした。

 疑問なのは「横一線」としながら、届け出順ではなく、志村氏を先に記していることだ。それ以降の記事は届け出順なので、明らかに恣意的に順を逆転させている。情勢報道では優位の候補者を先に書くことがあるから、そう分析したと言いたいのだろうか。

 ところが、世論調査結果を読むと、志村優位とはけっして言えなかった。例えば、2014年の県知事選での投票先について質問し、翁長氏に投票した人の6割強が志村氏、2割弱が佐喜真氏に投票すると回答。一方、仲井真弘多氏(前知事)の約8割が佐喜真氏で、志村氏は1割にも満たなかったとしている。

◆佐喜真氏優位の数字

 これを知事選の得票数から換算してみると、翁長氏(2万1995票)、仲井真氏(1万9066票)だったので、志村氏はざっと1万5千票、佐喜真氏は2万票となる。つまり志村氏優位とはならず、逆に佐喜真氏圧勝の構図だった。

 政党支持率も自民党18%が断トツで、社民党6・5%、共産党4・4%、民主党3・8%、公明党3・4%と続いている。自公の支持を受ける佐喜真氏がここでも優位だ。ただ無党派層が46・3%にのぼり、その「半数が志村氏を投票先に選び、より浸透している」とするが、それでも志村優位とはとても言えない。

 いくら「取材を加味」しても、届け出順をひっくり返して志村氏を先にするには無理がある。明らかな事実歪曲だ。志村陣営に肩入れしようと、「志村、佐喜真氏が接戦」と、あたかも志村氏に支持が集まっているかのような紙面作りをしたとしか考えられない。「公平な報道」からの逸脱なのは明白だ。

 こんな偏向報道や戸別訪問があっても佐喜真氏は2万7668票を獲得、志村氏に6000票近い大差をつけて圧勝した。これは世論調査結果をほぼ反映する数字だと言ってよい。琉球新報は世論調査をきちんと報ずればよいものを、事実を捻(ね)じ曲げ大恥をかいた。

(増 記代司)