“タレこみ”でスクープ続ける“進撃”の「センテンス・スプリング」
◆「裏金」を全てコピー
週刊文春の特ダネラッシュが止まらない。年頭(1月14日号)のタレント・ベッキーとバンド「ゲスの極み乙女。」のボーカル・川谷絵音の不倫スキャンダルが暴露され、先週発売の1月28日号では甘利明経済再生担当大臣の献金疑惑が炸裂、さらにベッキーの続報と、他を寄せ付けないスクープ独走が続いている。
これらの記事はみな「情報提供」、言葉を換えれば「告発」「タレこみ」によるものだ。週刊文春は週刊誌発行部数1位、「潤沢な取材費」と多くの記者を抱え、「情報提供料」も他誌に比べて格段に高いと言われている。同じ情報を持ち込むのなら、金額の高い方、影響力(発行部数)の大きい方を選ぶのが人情というもの。スクープも物量で他を圧倒した結果なのだ。
甘利大臣疑惑は「1200万円」を受け取った「政治資金規正法違反」になるのか、口利きが「あっせん利得処罰法違反」になるのかも関心だが、金を渡した側の“告発者”が罪に問われれば贈賄になるのに、なぜ週刊誌に情報提供したのか、の方により関心が向かう。
記事をみると、「千葉県白井市にある建設会社『S』の総務担当者」である告発者は事の発端から毎回の面談に至るまで、日を追って克明に記録している。さらに驚くのは渡した1万円札の番号を全てコピーして持っていたことだ。同誌グラビアページにその写真があるが尋常ではない。札の番号が写るように万札を数㍉ずつずらして並べ、それをコピーしているのだ。「献金」「裏金」を渡すのに、番号を控えてしかもコピーを取っておくという行動はかなり粘着質なものがある。
◆膨大な記録に違和感
なぜ告発したのか。「甘利事務所の秘書たちが、数年もの間、金をとるだけ取って、最後は事をうやむやにしようとしている姿に不信感を抱くようになった」「彼らのいい加減な姿勢に憤りを覚え、もう甘利事務所とは決別しようと決心した」からだ。
ということは、途中まで「献金」だか「裏金」だか「経費」だかを渡しつつ、懸案の処理を甘利事務所に頼み、事態が解決に向かって動いていたということだろう。それが「数年」たったが結果的に解決せず、「カネ」はムダ金になった。そこで「甘利事務所と決別しよう」と決めた、という流れだろうと理解できる。
ところが、違和感があるのは、この告発者は、「毎回いつ誰とどこで会ったかなどを記録に残し、領収書はメモと一緒に保管して」いたことである。「膨大な資料やメモ、五十時間以上にも及ぶ録音データなど」を文春に渡している。これでは最初から「証拠」を作っていたことになる。「万が一のための保険」だとしても、贈賄罪に問われれば、自身の首を絞める確たる証拠ともなるのに、どうしてこれをバラしてしまったのか。
読者目線ではこの告発者の“素性”を知りたくなるが、同誌は甘利事務所の担当者2人の経歴は書いているのに、告発者についてはほとんど正体を明らかにしていない。告発によって何を得ようとしているのか、を同誌は慎重に吟味したのだろうか。
当然、法律違反の金銭授受はあってはならないが、甘利大臣と言えば、2月には環太平洋連携協定(TPP)の調印式を控え、通常国会の後半はTPP批准が大きな焦点となる、安倍内閣の要であり国益がかかるポストだ。同氏のスキャンダルは夏の参院選や安倍首相の政権構想にも影響する。告発者の背景と最終受益者はだれか、が気になる。
◆内容流失の真相不明
話変わって、同誌はベッキーが1月6日に謝罪会見をする前のやりとりを載せた。文春に報じられたことで、「川谷<逆に堂々とできるキッカケになるかも>」というと、「ベッキー<ありがとう文春><センテンス スプリング>」と開き直っている。「センテンス スプリング」とは「文」「春」のこと。
呆れたやりとりだが、またまた無料通話アプリのLINEの内容が流出したわけで、ネットではこのことの方が大騒動となっている。本人が出さない限り、出回るものではない。「川谷の妻が流出させた」「音楽関係者が文春に持ち込んだ」などと言われているが、真相は不明だ。
しかし、流出させた人物がいるわけで、その手段は違法である可能性もある。文春はそういう素材にも“果敢に”手を出して行く。それが連続スクープを生んでもいるわけだが、提供者の意図に踊らされることだけはあってはならないと思う。
(岩崎 哲)





