危険、ナチス、独裁…とアジ演説的な「サンモニ」の緊急事態条項批判
◆正装神妙なSMAP
「わたしSMAP世代なんですよ~」。子供が同じ高校に通っていた、あるお母さんの“自己紹介”を思い出した。冷やかしたかどうかは覚えていないが、市井の大人まで自分の世代を言い表す代名詞にもしているグループの解散騒動は国民的関心事となった。生出演で「存続」を表明した18日フジテレビ放送の「SMAP×SMAP」は、平日午後10時台で視聴率37・2%(瞬間)に達し、大晦日のNHK「紅白歌合戦」並みに。
“リアルタイムのファン”であり続けることを願う多くの声が寄せられ、かしこまったスーツ姿で並んだメンバー5人の神妙な面持ちが印象的だった。業界にとってもドル箱を失いかねない非常事態だったろう。
ところで、彼らのような芸能人が、一様に正装してテレビに出ていたのが東日本大震災の後。戦後未曾有の大規模災害で、まさしく非常事態だった。その前には阪神淡路大震災もあり、国民の緊急事態対処への関心も高まった。19日付本欄で増記代司氏が触れているとおり、阪神大震災後の95年の読売新聞調査では90%余が憲法に緊急事態条項を「必要」と答えている。
しかし、当時は改憲条項(96条)を受けた改正手続きを定める法律がなかった。ようやく法整備が整い、憲法改正は具体的な政治日程に乗せることも可能な時代になり、通常国会でも質疑されている。が、検討案件の一つである緊急事態条項についてTBS「サンデーモーニング」(17日放送)を見ると、またぞろ「独裁」批判を繰り返していた。
◆災害に「最悪」考えよ
大災害に可能な限り対処するという正面からの見方と違って、災害対処二の次の謀略政治的な見方であり、昨年の新春特集で安倍政権を選挙を経て登場したナチスになぞらえようと「群集心理」を扱ったのと大差はない。
元共同通信記者の青木理氏は「ある種超法規的というか、首相に権限を一任しますというもので、極めて危険」と述べた。この認識だと首相は大規模災害よりも危険人物であり、権力によって大過を引き起こす人災ありきの見方になる。徹底した人間不信が心根にあるのだろう。
「ヒトラーの登場過程に似ている」と批判した福山大学客員教授の田中秀征氏は、「こういうことは最悪の場合を考えていかないといけない。今の状況の日本では危ないことばかり」と述べたが、日本列島には大災害が確実に起こることに「最悪の場合」や「危ないこと」を考えないのだろうか。この手の話題になると番組はナチスばかり引き合いに出すが、フランスで昨秋の同時テロに非常事態宣言が出たことを批判する者はいない。
毎日新聞特別編集委員・岸井成格氏に至っては、緊急事態条項を含む改憲案をつくった自民党は「非常に全体の流れが国家主義的で独裁体制をつくるということで、非常に走ったなかでつくった」と述べていた。「独裁体制をつくる」と簡単に言うところレッテル貼りとしか思えない。
しかし、TBSは岸井氏を4月からスペシャルコメンテーターとして遇する。若いときに安保闘争、全共闘運動など左翼運動が盛んだった世代が老後を迎えている今日、TBSはアジ演説の懐古趣味的フレーズをお茶の間に届けて視聴率を稼ぐのだろうか。
評論家・大宅映子氏は「関東大震災の時の後藤新平が欲しい」と述べ、災害対処に向き合う「いい面」に着目しようとしたが、自民党の改憲案に「危険」「ナチス」「独裁」といった言葉を投げつけた青木、田中、岸井3氏により掻き消された。
◆原油に絡む人物要因
さて、新年早々株価が振るわない。連日のように下げて1万6000円台になったが、中国の経済後退、人民元安、上海株式市場のストップ安、原油安と不穏な中東情勢などが注目されている。
その中で、フジ17日放送の「新報道2001」がサウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン副皇太子をキーマンとして取り上げていた。産油国の指導的な国であるサウジアラビアが、市場で供給過多になって安値となっても原油の減産に反対、また、イランと突然の断交など、これまでにない動きに人物要因から分析したのは興味深い。
サウジとイランの対立にはイスラム教スンニ派とシーア派、アラブ人とペルシャ人など歴史的、宗教的、民族的な要素も識者が解説。若い副皇太子の改革が中東、ひいては国際社会にどのような影響を及ぼすか、エネルギーを中東に依存している日本にとって他人事ではない。
(窪田伸雄)