AIIB事業開始に中国の恣意的な運用の懸念を深める読売、産経
◆公正運用求めた読売
中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)が北京で設立式典を開き、本格的な業務を開始した。
AIIBにはアジアや欧州などから57カ国が参加。参加国が拠出する資本金は計1000億㌦(約11兆8000億円)。その約30%を中国が出す。日本や米国は公平、中立な運営が期待できないとして参加を見合わせている。
このAIIB始動について、19日までに社説を掲載したのは、日経(16日付)、読売(18日付)、産経(19日付)の3紙。見出しを並べると、日経「中国主導の投資銀を透明化するために」、読売「公正な運営へ不安が拭えない」、産経「中国の独善運営を許すな」である。
列挙した見出しの通り、読売、産経はAIIBの運営に深い懸念を示す。以前から指摘されていた問題点が早くも明らかになったからである。
例えば、習近平国家主席の演説。読売は、習主席が式典で、「AIIBを含む新旧の国際金融機関が共に『一帯一路』建設に参加することを歓迎する」と演説したことを懸念に挙げた。
「一帯一路」とは中国と欧州を結ぶ巨大経済圏構想で、習主席の発言はこの構想の推進に、「AIIBを利用する意図を露(あら)わにした発言」(読売)だからである。同紙が社説の冒頭で「公正な運営を実現し、国際金融機関の責務を果たせるのか。新銀行への不安はなお拭えない」と強調するのも、尤(もっと)もである。
ましてや、このところの中国経済の減速である。19日発表された15年の国内総生産(GDP)は実質で前年比6・9%増にとどまり、25年ぶりの低水準。最大出資国の中国が、「AIIBのインフラ整備を自国の成長回復の手段とする姿勢を強めかねない」というわけである。
ほかにも、「AIIBの融資が軍事転用の可能な港湾整備事業など、中国の独善的な海洋進出のために使われないかとの疑念も募るばかりだ」と指摘するなど、同紙の懸念は尽きない。
◆懸念される中国本位
読売以上に、「中国が恣意(しい)的に組織を運営する恐れは、減じるどころか、むしろ高まっているのではないか」と疑念を深めるのが産経である。
産経は、AIIBがインフラ需要の旺盛なアジア勢はもとより、英独仏など欧州諸国も入り、「既存の国際金融機関に対抗する体裁だけは整えた」ものの、「中国色があまりに強いこと」を問題とした。
初代総裁は中国財政省の元次官の金立群氏。本部の北京に常駐の理事を置かず、そして、「何よりも3割を出資する中国は融資案件に対し単独の拒否権を行使できる盤石の態勢」(産経)である。読売同様、産経が「これでは、中国の都合に左右される不透明な融資が行われる懸念は拭えない」とするのも肯(うなず)ける。
日米は今後、読売が指摘するように、AIIBの動向を注視し、問題があれば、出資国である欧州各国などを通じて、改善を求めていく必要があろう。
読売はさらに、両国が主導するアジア開発銀行(ADB)を通じ、「AIIBに適切な組織運営や融資審査のノウハウを習得させ、国際ルールの順守を促すこと」を求め、産経も同様に、ADBとの協調融資を通じて、「AIIBが適切な運営をするか厳しく監視し、国際機関にふさわしい行動を求めるべきだ」と強調するが、同感である。
◆警戒感が乏しい日経
日経は開業前の掲載ということもあり、読売や産経と比べ、おとなしい印象である。
同紙も先の2紙と同様、AIIBに対しては運営面の透明性を望み、(議決権比率でも26%を得て重要事項を単独で否決できるが)「だからといって中国の対外的な影響力拡大を狙った恣意的な運用は許されない」と指摘はする。
ただ、それでも日経は、AIIBが「当初予想より大きな影響力を持つ可能性があり、その現実に正面から向き合うべきだ」とのスタンス。南シナ海問題を巡る摩擦が表面化する中でもフィリピン、ベトナムを含めた東南アジア各国が参加したのは、国内のインフラ整備に中国の資金が必要という現実的な判断があったからだ、というわけである。
確かにそうした経済的側面は無視できないが、中国の安全保障面をも含めた狙いに対し、2紙に比べて危機意識、警戒感が乏しいと思えるが、どうか。
(床井明男)





