新年の経済で保守系4紙が短期、中長期的な視点から前向きな提言
◆欧州に範求めた日経
2016年の経済がスタートした。4日の東証大発会は582円73銭安という波乱の幕開けになったが、今後どんな展開になり、それを各紙はどう伝え評価するのか。今年もウオッチしていきたい。
今回は新年の日本経済を論じた各紙社説を取り上げる。5日までに掲載したのは読売、産経、日経、本紙と保守系の新聞だけ。日付順に見出しを並べると次の通りである。
日経(1日付)「新たな時代の『追いつき追い越せ』へ、同(3日付)「グローバル化の大波に乗り成長を」、産経「機逃さず『稼ぐ力』高めよ」、読売(4日付)「官民連携で『好循環』の実現を」、本紙(5日付)「成長力どこまで回復できるか」――。
日経社説は「日本経済 生き残りの条件」との副題の付いた連載もの。1日付の「新たな…」は、生き残るためにまず大事なのは「おのれの姿を正確に知ることだ」と指摘する。
正確な姿とは、例えば14年の国別1人当たり名目国内総生産(GDP)で日本は90年代半ばの3位から27位に沈み、世界銀行がまとめているビジネス環境ランキング(16年版)では前年より4つ下げ34位に後退したことなどで、「こびりついている世界第2の経済大国の残像の修正からはじめる必要がある」と強調する。
そこで同紙が「ひとつの方法」として提案するのは、欧州に範を求めることで、例えば、「優秀な人材を世界から引き寄せる国の魅力」のあるスイスや、「輸出に軸足を置いた『グローバル農業』を開花させた」オランダ、である。日本とは経済規模や産業構造など大きな違いがあるが、貴重な視点である。
3日付の「グローバル…」は主に企業向けの提言である。外国企業のM&A(合併・買収)など「攻め」の姿勢はなお不十分、研究開発のさらなる磨きと同時に、国際標準とかけ離れた「ガラパゴス化」を避けるため、「相手国の目線に立ち、その人々が求める商品やサービスを生み出す構想力」が大切と説く。そして、環太平洋連携協定(TPP)を飛躍の足掛かりにせよ、と。経済紙らしい主張である。
今年というより中長期的な視点から、「力強さに欠け、企業マインドも消費者心理もすっきりしない」(1日付)日本経済への提言である。
◆企業の成長促す産経
産経の「機逃さず…」は、中長期的な成長という視点では日経と同様だが、そのために重要なのがこの1年であるという指摘である。景気に力強さが見られないことに、「今更ながら、『失われた20年』で染みついた縮み思考の拭いがたさを実感する」としながらも、来春には消費税再増税を控え、その実施とそれを乗り越えられる経済を取り戻せるか「覚悟と行動が求められる1年」というわけである。
ことに、アベノミクスを継続する政権の責任は重いとして、「もっと大胆に規制緩和を進め、成長産業が育つ環境を整えるべきだ。農業や労働など道半ばの改革は多い」と訴えるのである。
企業に対しては、日経同様、「民間自らの取り組みに経済再生がかかっている」との自覚の下、成長の機会を見逃さず、国内外で「稼ぐ力」を着実に高めるという「攻めの経営戦略が欠かせない」と説く。
しかも、昨年大筋合意したTPPは「大きな追い風となり得」、「新たなビジネスにどうつなげるかに、知恵を競い合うべきときであ」り、「2020年東京五輪・パラリンピックに向けた取り組みを成長にどれだけ生かすかも問われる」「土台は整いつつある」、あとは企業次第であるという指摘である。
尤もな指摘なのだが、問題は国内外とも経済の先行きが不透明な中、利潤追求を主目的とする企業にどこまでそうした行動が期待できるかである。
◆官民協力説いた読売
読売は、今年は「第2ステージ」に入ったアベノミクスの「真価が問われる年」として、いまだ本格的に動き出していない「経済の好循環」を実現させるには、「成長戦略の手を緩めてはいけない」と強調。そのカギを握るのが政府と経済団体による「官民対話」で、官民が協力して賃上げと設備投資を積極的に進めるための環境整備を加速させよ、と強調する。
これもまた、妥当な指摘なのだが、設備投資の行方に不安があるとしたのが本紙で、16年度後半に再増税の見直しか大型補正の検討を求めた。いずれも真摯な前向きな提言である。
(床井明男)