日韓の慰安婦問題最終合意の紙面で朝日は隠した虚偽報道の悪影響

◆「韓国の新聞で」と嘘

 2016年が明けた。元旦は例年になく澄み切った空で、都内の高台から初日の出が楽しめた。全国的にも穏やかな日和で、各地の神社や寺に初詣する参拝客の顔は晴れやかだった。

 そんな快晴とまではいかないが、懸案だった日韓関係が年末の外相会談で慰安婦問題の最終合意に至り、課題を残しながらも曇り空の中に陽が差した感がする。本紙は「今年(15年)の10大ニュース」の7位に挙げている(12月30日付)。早々と十大ニュースを組んだ新聞にはむろん載っておらず、幻の十大ニュースとなった。合意が蒸し返されて幻とならないように願いたい。

 日韓合意は本欄ですでに扱われているが(31日付)、朝日のいかがわしい報道姿勢を黙って見過ごすわけにはいかない。重複を恐れず、取り上げることにする。

 朝日29日付の社説は「歴史を越え日韓の前進を」とし、「(両政府が)負の歴史を克服するための賢明な一歩を刻んだことを歓迎したい」と言ったが、「負の歴史」を作った責任の一端、いや張本人が当の朝日だったことをまるで忘れたかのような書き様である。

 総合面では1頁を割いて「慰安婦問題 これまでの経緯」を特集し、その中で「慰安婦問題が焦点となったのは、1990年代初めごろから。韓国社会の民主化と、女性の人権意識向上という大きな変化が背景にある」とし、「90年1月、韓国の新聞で慰安婦問題が連載」されたことがきっかけだとしている。

 冗談ではない、きっかけは朝日の虚偽報道だったはずだ。戦時勤労動員だった「女子挺身隊」について日本政府による“慰安婦狩り”だったと事実に反することを書き立て、それが発端となった。虚偽の最たるものが「吉田証言」だったことは周知のとおりだ。

◆「誤解広めた」と読売

 1980年代に共産党系の吉田清治氏が済州島で強制連行し慰安婦にしたとの著作を著し、朝日がこれを大々的に報じた。これに対して89年に済州島の地元韓国人記者が嘘を見抜き、その後、吉田氏自身も偽証と認めた。

 ところが、朝日は90年代に入っても執拗に取り上げ、これを韓国側が尾ひれをつけて報道、91年には元慰安婦の「初証言」なるものを報じ、韓国側とのマッチポンプで慰安婦問題を作り上げた。にもかかわらず、朝日はこうした経緯や「吉田証言」に触れず、民主化や女性の権利意識向上が背景などと、ことの本質をすり替えた。健忘症もはなはだしい。

 朝日は14年8月、「吉田証言」を虚偽と認め、それまで報じた16本の記事を取り消し、同年12月には新たに2本の記事も取り消した。木村伊量社長(当時)は引責辞任した。これにほおかぶりするのは、不誠実きわまりない。

 これに対して読売29日付は朝日の虚偽報道をきちんと書いた。慰安婦問題が1990年代に政治問題化した要因が「吉田証言」と指摘し、「朝日新聞などが吉田氏の発言を紹介し、『日本軍が女性を強制連行して慰安婦にした』という誤解が広まった」と解説している。

 さらに読売は同問題が国際社会に広がったもう一つの要因として国連人権委員会(当時)の「クマラスワミ報告」を挙げる。同報告は朝日新聞が「繰り返し報道」した吉田証言を強制連行の根拠としているからだ。政府は朝日が虚偽を認め、撤回したのを受けてクマラスワミ氏に吉田証言の引用文を撤回するよう求めたが、同氏は撤回を拒否したとしている。

◆日韓分断の狙い漂う

 このことにも朝日は沈黙する。社説は「日韓がともに前を向いて歩む(日韓国交)50年の始まりとしたい」と結ぶが、社会面トップは「謝罪、直接聞きたい」と元慰安婦らの不満の声を強調し、後ろ向きの紙面作りに終始した。読売の社会面トップが「日韓 良い方向へ」とのコリアンタウン(東京・新大久保)の歓迎の声をメインに据えたのとは対照的だった。

 朝日の元旦社説は「分断される世界 連帯の再生に向き合う年」とし、「社会の分断につけこむ政治家や宗教者、言論人」を批判するが、日韓の分断につけこんだのは朝日である。それと向き合わず、謝罪もしない。こっちは年明け早々、暗雲が立ち込めている。

(増 記代司)