サムスンの貪欲な日本技術の獲得と目的喪失を扱ったダイヤモンド

◆トップで真似できず

 韓国経済を牽引(けんいん)してきた“唯一の巨人”サムスンが曲がり角に来ている、という指摘が溢(あふ)れている。サムスンの稼ぎ頭であるサムスン電子の売上7割を占めるスマートフォンが頭打ちになり、次なるターゲットを模索しているのだが、これまで「トップ」を追いかけ、徹底的にその技術を盗み真似し追いつき追い越し叩き潰してきた手法が、自らトップになることで目標を見失ったのだ。

 週刊ダイヤモンド(11月16日号)が「サムスン、日本を追いつめた“二番手商法”の限界」という特集を組んでいる。サムスンが日本企業を「ベンチマーキング」して、徹底的に情報を収集し、同程度の物を作り、市場で先回りして、日本を叩き潰した事例として、シャープ亀山工場の液晶パネルが記憶に新しい。

 サムスンがまだ、現代グループやLGらと横並びの財閥の一つにすぎなかった90年代。サムスン本社の知人は筆者に「わが社では日本語が必須」と語り、日本から徹底的に学んでいることを明らかにした。当時はまだ日本との差が大きく、いずれサムスンが近づいてくることはあっても、基礎技術力に勝る日本がそう簡単に負けるとは想像もつかなかったのだが……。

 同誌は現在サムスンが直面している課題を挙げている。まず第一に“二番手商法”でアップルを追いつめるまでになったサムスンだが、スマホ市場が飽和状態となり、今度は「自らが先頭に立って新領域を切り開かねばいけない。これこそまさにサムスンが最も苦手とする、モノマネが通用しない世界」になっていることだ。

 第二は「BtoB」(企業間取引)や素材ビジネスへの転換を試みているものの、「極端な短期成果主義」が大きな足枷(あしかせ)となって、長年かかる「技術の土台がいまも脆弱(ぜいじゃく)」なままであること。

 第三は、巨大なサムスングループの相続問題。李健煕(イコニ)会長の長男・李在鎔(イジェヨン)氏が「サムスンを引っ張って行ける能力があるか、国内外からも疑問の目が向けられている」というのだ。

◆流出は日本側に原因

 サムスンが大きな転換期に立っていることがよく分かる特集になっている。その中で見逃せない記事がある。「サムスンが呑み込んだ日本の技術」がそれだ。サムスンが日本人技術者を引き抜き、時には企業の極秘情報まで入手して、競合企業を倒していった手法を明らかにしている。

 問題は、どうして、このような技術者が出てくるのかという点だ。これらのヘッドハンティングされていった日本人技術者は、退職の理由や、その後の転職先を同僚や仲間に言えない“後ろめたさ”を抱えているという。当然だろう。「日本を裏切る」「日本を売る」結果になっているからだ。いくらビジネスの世界とはいえ、韓国が日本をやっつける手助けをしているわけだから、世が世なら「売国奴」の汚名を着せられる。

 しかし、同誌の記事を読んでいくと、サムスンの人事情報にまで踏み込んだ熱心な情報収集力、何年もかけて狙ったターゲットを落としていく執念深さ、そして、サムスンに行く日本人の「倫理観」のなさのほかに、日本企業の技術者への待遇の悪さ、情報管理の甘さもあることが分かってくる。

 内部資料が流出するには、出した内部協力者がいるはずだ。「盗人にも三分の理」で社を裏切るに至った理由がある。待遇だったり、金であったりだ。同誌は「日本企業は技術者への評価が低過ぎる」と指摘する。その隙を突かれているのである。

◆居心地よく後悔なし

 「サムスンマンの覆面座談会」では、「技術を教え終わって、数年で捨てられるのでは」という質問に対して、結構居心地のいい韓国生活が語られ、技術者として、韓国人の後輩たちを指導する充実した様子さえ伝えられているのを見ると、問題が単純でないことが分かる。

 もちろん、厳重な情報管理や規則・制限があり、韓国での単身生活の不便さや寂しさ、そして後ろめたさも語られているが、あまり「後悔」している様子はない。

 同誌はこうした日本企業が抱えている問題点にももっと多くの紙数を割くべきではなかったのか。日本側が変わらない限り、日本企業と技術者は“第二のサムスン”を韓国に作り出すことに貢献してしまうだろう。

 サムスンは次の開発分野として光学機器、電気自動車などを狙っている。「追いかける存在があればこそ強みを発揮してきた」サムスンが次なるターゲットとして狙う日本企業(の技術者)は多い。

(岩崎 哲)