日銀の物価上昇率目標先送りの主因である消費税増税に触れぬ各紙

◆修正求める毎日など

 日銀が先の金融政策決定会合で、現行金融政策の維持と、2%の物価上昇率目標の達成時期を従来の「16年度前半頃」から「16年度後半頃」に半年先送りすることを決めた。目標の先送りは4月に続くものである。現行金融政策の維持は、物価上昇率目標の達成の遅れから株式市場などから期待の高かった「追加緩和策」を採用しなかったということである。

 日銀の決定について、論評した各紙社説の見出しは次の通り。10月31日付で毎日「2%物価目標/固執は政策の信用失う」、産経「物価目標先送り/脱デフレへ政策の強化を」、東京「同/『緩和』頼みは限界だ」、11月1日付で朝日「異次元緩和/出口戦略を語るべきだ」、読売「物価目標先送り/デフレ心理払拭は道半ばだ」、日経「長期戦への対応迫られる日銀の金融政策」――。

 毎日や東京は、追加緩和を含め異次元金融緩和を13年4月から2年半以上続けているのに、2%物価上昇達成という目標は「実現するどころか、現実から遠ざかっている」(毎日)のに、目標に固執し、達成見込み時期の先送りを繰り返すのは、「日銀の政策自体が信用を失いかねない」として、柔軟で現実的な目標に修正すべきだという。

 確かに、現在のような状況に至っては尤(もっと)もな指摘である。朝日が指摘するように、2%インフレという目標は、消費税増税の影響を除けばここ20年達成したことのない高い伸びで、目標自体が高過ぎたと言えなくもない。

 ただ、これも結果論で、黒田東彦総裁が異次元緩和を発表した当初の、劇的な円安・株高の進行は、そうした目標もあながち不可能ではないのではないかとの感触を少なからず抱かせたものである。

 日銀にとって誤算だったのは、最近の原油価格の下落傾向の定着もそうだが、黒田総裁も積極的に支持した14年4月からの消費税増税の影響の深刻さであろう。

◆追加緩和せず「妥当」

 消費税増税の影響については、小欄でもたびたび指摘してきたが、今なお引きずって、15年度7~9月期のGDP(国内総生産)も2期連続のマイナス成長が予測される状況で、とにかく、景気の牽引(けんいん)力が不在で拡大に勢いが付かないのである。それどころか、中国など新興国の経済減速でさらに足を引っ張られている現状である。

 産経は、2%達成が「ここまで遅れたのは、経済が力強い成長軌道を描けていないためだ」としたが、ではなぜ力強い成長軌道が描けなかったのかと言えば、同紙も日銀総裁同様に支持した消費税増税により、円安・株高→消費増→企業収益増→賃金・設備投資増→消費増の好循環が途切れてしまったからである。

 産経はまた、異次元緩和で円安株高が進んだが、「それが実体経済の成長につながらないのは、政府の成長戦略が十分な効果をあげていないためである」とも指摘したが、それも確かにあるが、主因は需要を押し潰(つぶ)した消費税増税である。

 朝日は「異次元緩和は成果が乏しく、見直す必要があるのではないか」「出口戦略を語るべきだ」とするが、経済の現状からは確かにその通りだが、異次元緩和の成果を乏しくしたのは、朝日も支持した消費税増税であることを忘れてはなるまい。

 各紙とも、日銀が追加緩和を採らず現状維持にした判断を「妥当」(読売)などとしたが、これは同感である。追加緩和を実施すれば、円安が進んで輸入物価が上がり、消費を抑制し景気を冷え込ませる恐れがあるからである。

◆需要創出で設備投資

 日経は日銀の金融緩和政策が「苦境を迎えている」とし、「大胆な緩和でインフレ期待を一気に高めようとした『黒田緩和』は短期決戦型の政策でもあった。日銀は長期戦も視野に入れた脱デフレ戦略を構築する必要がある」と強調したが、長期戦にさせたのは同紙も支持した消費税増税であり、それがなければ必ずしも長期戦にならずに済んだかもしれないのである。

 物価の基調は黒田総裁が話すように、エネルギー関連を除けば「改善している」のは確かであり、雇用情勢からも2%目標に拘泥せず出口戦略を模索すべき時を迎えていると言える。そして、さらに必要なのは好調な企業収益を背景に積極的な設備投資に向かわせる需要の創出である。

(床井明男)