日銀短観が示す企業の先行き懸念にあくまで「構造改革」求める日経

◆急減速の懸念は尤も

 消費税増税を積極的に支持し、景気より財政健全化重視の姿勢を示している日経にしては、景気の先行きに慎重な見方をした社説である。2日付の「中国経済減速への懸念を映した日銀短観」という見出しの付いた社説である。

 これは見出しの通り、日銀が1日に発表した短観を論評したもので、冒頭、中国経済の減速懸念を背景に「先行きの日本経済の下振れリスクが強まっている」「(日銀短観は)そんな不安を示す結果となった」と評したのである。

 今回の短観は大企業製造業で景況感が3期ぶりに悪化。一方、大企業非製造業は小幅改善したが、3カ月後の先行きでは、どちらも悪化の見通しになり、企業が先行きに慎重な見方をしていることが示されたのである。

 背景は前述の通りで、日経の表現を借りれば「中国をはじめとする新興国の一段の景気減速への懸念」ということである。このため、同紙は「中国の動向しだいで日本経済が景気後退局面に入るリスクはあり、警戒を怠れない」と指摘し、さらに「世界経済が急減速する事態になれば、政府・日銀が政策対応を迫られる事態もあり得る」とするのだが、尤(もっと)もな指摘である。

 ただ、同紙はそれでも、「いまの段階で本格的な景気対策が必要と決めつけるのは尚早だ」という。政府・与党内には景気対策を盛った2015年度補正予算の編成を求める声もあるが、「先進国で最悪の財政事情を考えると費用対効果に乏しい安易な財政出動は慎むべきだ」と強調するのである。やはり、ここでも日経は、景気の下振れリスクより財政健全化のようである。

 確かに、それは景気が好調で力強い拡大を見せているのなら、下振れリスクが予想されても、同紙の指摘のように、本格的な景気対策は尚早と言えるかもしれない。

◆「中長期」で大丈夫か

 しかし、最近の日本経済は4~6月期の実質国内総生産(GDP)がマイナス成長で、しかも、今回の日経社説でも記しているように、「鉱工業生産指数が2カ月連続で前月比マイナスとなり、7~9月期の実質経済成長率がマイナスになるとの観測も出ている」状況なのである。

 今回の日経社説が結論として求めているのは、「一時的な景気のカンフル剤ではなく、中長期の成長基盤を固めること」で、「法人実効税率をさらに下げる道筋を固め、岩盤規制の改革を急いでほしい」ということだが、果たして、こうした中長期の対応だけで大丈夫なのであろうか。

 日銀短観についての論評を掲載した産経の3日付社説(主張)は、「このまま実体経済の停滞が続き、不安心理が拡大する事態は避けたい」として、「安倍晋三政権が成長を確実にする責務を負うのは当然だ」と指摘するとともに、「同時に、経済の好循環を果たせるかどうかは、民間の踏ん張りにかかっている」として、「景気変調に萎縮せず、円安などで改善した収益を投資や賃上げに確実につなげる前向きな経営に期待したい」と強調する。社説の見出しは、具体的で景気に短期的にも効果が期待できる「設備投資の着実な実行を」である。

 設備投資については、日経社説も「短観では、企業が積極的な設備投資計画を維持していることも明らかになった。企業収益は高水準を保つ」と記してはいるが、それだけである。もっとも、産経3日付「主張」にしても企業に対する期待を表明するだけである。

◆悪循環断つ対策必要

 短観によると、15年度の設備投資計画は大企業全産業で前年度比10・9%増と前回調査(同9・3%増)より高い伸びになったが、3日付社説で短観を論評した本紙は、「先行き悪化の見通しもあり、そのまま実施されるかは確かでない。前年度(実績は5・9%増)と同様に計画倒れになる可能性も十分ある」と慎重な見方をしている。

 甘利明経済財政担当相は、好調な企業収益の割に現実の設備投資額に物足りなさを表明しているが、昨年4月の消費税増税以降、「個人消費が低迷を続けることで設備投資も勢いを失い、経済の好循環が途切れたばかりか、逆に悪循環が生じている」(本紙)のであり、「そこに不運にも海外経済の減速による負の影響が及んでいる」(同)ということであろう。

 本紙は経済対策の早急の検討を求めるが、日経のように時期尚早なのであろうか。

(床井明男)