TPP大筋合意、成長力を取り戻す原動力に
自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった価値観を共有する日米など12カ国が、環太平洋連携協定(TPP)締結交渉で大筋合意した。アジア太平洋地域の経済発展を取り込み、日本が成長力を取り戻す原動力となる。
公正な貿易ルールに従わず、軍事力を背景に海洋進出を強化し力ずくで現状変更を企図する中国に対する包囲網形成の意味合いもあり、先の国会で成立した安全保障法制とともに日米同盟強化に弾みを付けるものとして歓迎したい。
待ち構える厳しい改革
人口8億人、国内総生産(GDP)の合計額が世界全体の4割近くを占める巨大な経済圏の誕生である。域内に共通の国際ルールを確立したことで参加各国に課題は残されているものの、その先には経済発展のチャンスが限りなく広がるのだ。
それは国際競争力の低下に直面する日本にとっても同様である。安倍政権は成長戦略の柱と位置付け、2013年7月に交渉に参加した。「第2ステージのアベノミクス」の目標に掲げた「新3本の矢」の一つの名目GDP600兆円達成に、TPPが寄与するところも大きいと言えよう。
交渉を担当した甘利明経済再生担当相は「重要農産品5項目を中心に関税撤廃の例外を数多く獲得」したことを強調。また、コメなどの関税維持を求める国会決議を反映した内容になったと述べた。一方で、米国産のコメの輸入枠を日本が新設するといった特定国への配慮が散見される。厳格な守秘義務により交渉内容が不透明になってきた点もある。来月国会で閉会中審査を行うが、経過説明と合意内容と意義を丁寧に説明し理解を求めることが必要である。
農家にとって厳しい改革が待ち構えているのは覚悟しなければならない。一方で、コメや牛・豚肉、乳製品などの市場開放で影響を受ける国内生産者への支援策も不可避だ。その際、数字ありきであってはならない。
日本がコメ市場を開放した1993年のウルグアイ・ラウンド交渉妥結後、政府は6兆円の事業費を計上した。与党内からは早くも最低でも数兆円必要といった声が出ている。来年夏の参院選を意識しての発言だろうが、国費が使用される以上、十分な検証を踏まえて効果的な対策を打たねば“新しい矢”は折れてしまおう。
一方、美濃焼、有田焼、伊万里焼といった日本が誇る陶磁器、静岡、鹿児島などの日本茶、眼鏡フレームなど関税がゼロになるものを生産する中小業者らにとっては世界の舞台に出ていくチャンスだ。同時に、首相が繰り返し強調してきたように美しい田園風景、伝統ある故郷、助け合いの農村文化など国柄にかかわる宝をどう守っていくか。長期的なビジョンと具体策を示さねばならない。
アジア太平洋の新世紀を
TPPは、独自のルールを世界で押し通そうとする中国への牽制(けんせい)にもなり得る。
日米関係をより強化し、台湾、フィリピン、タイや韓国をもTPPに引き入れて新しいアジア太平洋の世紀を築いていくべきである。
(10月10日付社説)