「軽減税率」で財務省案を徹底批判し欧州型の検討求めた読売、産経

◆国民負担を各紙強調

 つい最近までは、連休入りの19日未明に成立した安保関連法に関する社説が左派の新聞に異常に目立ったが、これを除くと、経済関係では、やはり、例の財務省案に対する社説が少なくなかった。

 財務省案とは消費税率を10%に上げる際、同省がまとめた負担軽減案のことである。前回の小欄掲載(10日)以降、読売と産経がそれぞれ、11日付と16日付、12日付と19日付の2回、朝日、毎日、日経(11日付)、本紙(13日付)が1回掲載した。前回評した分を含めると、6日以降で読売、産経は3回、毎日が2回である(東京はなし)。

 内容は、朝日と日経が課題は多いものの一部評価した以外は、前回にもまして厳しい批判を展開。見出しだけでも、「還付案は直ちに撤回を」(毎日)、「国民への配慮を欠く財務省案」(11日付読売)、「負担も手間も強いるのか」(12日付産経)、「誰のための負担軽減策か」(本紙)などという具合である。

 財務省案に対して、各紙から厳しい批判が出て来るのは当然である。負担軽減案の趣旨は、文字通り、消費税増税による痛税感を緩和し、個人消費の落ち込みを緩和するためなのだが、財務省案は「消費増税に伴う痛税感を和らげる効果に乏しい上に、国民に無用の負担を強いる」(11日付読売など)からである。

 財務省案は全品目に10%の税率を課した上で、酒類を除く飲食料品の2%分を、マイナンバーカードを使い、後に還付するというもの。消費者は買い物時には全てを10%で支払わなければならず、また、還付を受けるには消費者自らが申告手続きを行う必要がある。しかも、還付額には一人4000円程度という上限付きである。まさに産経(12日付)などが言う通り、消費者に「負担も手間も強いる」ものなのである。

◆公約違反責める読売

 これから運用が始まるマイナンバー制度を活用するため、ナンバーを読み取る機器を全国の小さな小売店まで設置できるのかという時間の問題や、個人情報流出への対策は大丈夫なのかという懸念もある。そして何より、痛税感の緩和が期待できない中での10%への消費増税が、現在でも成長力の心もとない経済に与える悪影響である。

 この点は、前回の小欄でも指摘したが、特に読売、産経はそうした点を踏まえて、欧州各国が採用している「軽減税率の導入」を強く打ち出している。一時期、財務省案を負担緩和策のたたき台とした自民、公明両党の税制協議会に対し、公約違反・責任放棄を責め、その尻を引っぱたいた形で、現状は「本来の軽減税率の導入を軸に、財務省案などと並行して検討していくことになった」(読売16日付)。財務省案そのものの採用は難しくなったということである。

 財務省が軽減税率の導入を渋るのは、対象品目を標準税率(今回の場合は10%)と軽減税率(同8%)に分ける線引きの難しさや、複数の税率になることにより取引ごとに税額を記入するインボイス(税額票)を作成する事務負担の煩雑さのためだが、読売(11日付)が指摘するように、「税制を巡る利害を調整し、実現を図ることこそが、政治本来の責務」であろう。

 しかも、例えば、事業者の事務負担が煩雑になるとされるインボイスについては、読売、産経が指摘するように、「簡略化しようと思えば、請求書に税率や税額を書き加える程度で済み、さほど負担が増えるわけではないと指摘する専門家も少なくない」(読売16日付)ようである。

◆景気如何で再延期も

 軽減税率を導入しているのは欧州各国のほか、アジアにも韓国やタイなどがある。読売(16日付)が「日本だけ作成が難しい事情があるとは思えない」というのも肯(うなず)ける。そして、産経(19日付)が強調するように、「負担軽減策は、わかりやすいものでなければ消費減退を抑えることは期待できない」ため、「それには買い物のたびに効果を実感できる軽減税率が最適」(同)なのである。

 もっとも、景気は回復力が弱く、先行き悪化も見込まれる状況である。果たして予定通り、17年4月から消費税率を10%に引き上げていいものかどうか。これまでの議論は、あくまで10%に上げる場合に限ってであり、景気の回復如何によっては再延期も予想しておくべきであろう。

(床井明男)