安保法制への反対は反政府運動の手段と白状したに等しい朝日など

◆共産党だけ漁夫の利

 NHK(BS)で作家・浅田次郎の小説をドラマ化した時代劇「一路」が放映中だ。中山道をたどる参勤交代がお家乗っ取りの企ての妨害に遭い、果たして江戸に着けるのか、そんなあら筋だ。行列を采配する主人公の信条は「参勤交代は行軍、戦である」。

 安倍首相も同じ思いで安保法案の成立にこぎつけたに違いない。審議時間は衆参両院で計220時間2分。安保関連法で最長の国連平和維持活動(PKO)協力法の193時間16分を超えた(読売19日付)。

 と言っても、審議の中身はお粗末だった。「戦争法案」などのレッテル貼りや答弁の言葉尻を捉えた批判など本質から外れた議論が多く、いたずらに時間を浪費したと読売は言う。野党は安倍打倒の反対論に終始し、先週の国会の乱闘騒ぎはお家(政権)乗っ取りの企てを思わせた。

 朝日や毎日などの左派紙だけでなく、テレビも連日、反対デモや集会を報じ、まるで世論は反安倍・反与党に染まっているかのようだった。だが、各紙21日付の世論調査を見ると、安倍内閣の支持率の下げ幅は小さい。

 朝日は1%減(前月比)の35%、読売は4%減の41%、東京(共同通信)は4・3%減の38・9%、日経は6%減の41%。逆に毎日は3%増の35%。歴代内閣では30%台は高いほうだ。

 自民党の支持率も朝日では3%減の33%だが、民主・維新・共産など反安保政党の合計支持率は17%で、自民党のほぼ半分にとどまる。総じて言えば、共産党だけが支持率を上げ、漁夫の利を得ている。

◆デモは社共の高齢者

 法案成立を受けて毎日は「これまで政治への関心が低いと見られていた若者や母親ら普通の市民が、ネットなどを使って個人の意思で声を上げ、デモや集会に参加した。これらの行動は決して無駄に終わることはない」(20日付社説)と情緒的に言う。

 これに輪をかけて朝日は「(デモ参加者は法案が成立しても)こわばった悲壮感は感じられない。むしろ前向きな明るさをたたえている」「党派によらず、党派を超えて、一人ひとりが時間と労力を使って、ただ反対の意思を示すために足を運び、連日、国会前に空前の光景が生まれた」(同)とし、「新たな『始まり』の日に」と酔いしれている。

 安保法案が本当に「戦争法案」なら、成立で悲壮感が漂うはずだが、それがない? 反政府運動の手段だったと白状しているに等しい。

 産経は世論調査で「普通の市民」の正体を暴いた(15日付)。それによると、反対集会に参加した経験のある人は3・4%にとどまる。参加経験者の41・1%は共産支持者で、14・7%の社民支持者を加えると、両党支持者で55・8%。民主は1割程度だ。

 で、産経は「一般市民による」よりも「特定政党の支持層による」集会が実態だと指摘する。参加経験者を年代別に見ると、最も高いのは60代以上の52・9%で、60年・70年の安保闘争を経験した世代の参加率が高い。同世代の大半はエセ平和運動から目覚めたが、「懲りない面々」がまだ残っているようだ。

◆戦争暗示で心理操縦

 ところで60年安保時に発刊された『世論』(高橋徹編=有斐閣)は「扇動」についてこう定義している。

 「あらかじめ設定された目標に沿って、大衆の考え方を変えたり統制したりして、最後には行動にまで導いていく心理的技術」

 つまり暗示といった心理的操縦で、シンボルを計画的・組織的に使用して世論を組織化するのだという。まず核となる政党が統一戦線を形成し、それを軸に共闘組織を各地に作り、最後に大衆を巻き込む。これを同書は「底辺における『組織されない世論』の組織化への蠢動である」と記す。むろん共産主義の手法だ。

 今回、シンボルとして「戦争法案」が使われ、国会デモは「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」なる共闘組織が主催、左派メディアが加担し「世論」が作られた。まさに蠢動の構図だ。

 共産党は法案成立後、嬉々として来夏の参院選での野党協力をぶち上げている(各紙20日付)。冒頭のドラマは今週(25日放映)が最終回で、その結末はいかに―。安倍政権に対するお家乗っ取りの企て劇はまだまだ続く。

(増 記代司)