世界経済に悪影響及ぼす中国上海株急落・ギリシャ危機を3誌特集
◆国際金融の不安要素
今年3月のギリシャ選挙を境にEU(欧州連合)が揺れ始めた。急進左派で緊縮財政に反対するチプラス氏が首相に任命されたことでギリシャ危機到来の幕開けとなった。事実、6月30日期限のIMF(国際通貨基金)からの融資に対して返済は行われず、さらに同国の銀行は支払い停止状態に陥った。同首相はEUの財政改革案を受け入れるかどうかで国民投票を行ったが、EU案反対が多数を占める中、ギリシャはEUから離脱するのではという臆測が飛び交った。結局、チプラス政権はEUの意向を受け入れる形で緊縮財政案をEUに提出、何とか支援を取り付け最悪の状況を切り抜けた。ただ、それですべてが解決したとは誰も思っていない。
一方、時同じくして中国では、同国の株式市場を代表する上海総合指数が最高値を付けた今年6月12日を境に3週間で3割下落。いよいよ中国バブルの崩壊かと思わせたが、中国政府の強制的な株価対策で同指数は反騰し何とか持ち直しているのが実情だ。ギリシャにしても中国にしても、厄介なのは両国の危機は一国にとどまらず、周辺国あるいは世界の金融経済市場にもろに影響を与えること。
こうしたアジアとヨーロッパの状況に対して経済誌が特集を組んだ。週刊東洋経済は7月25日号で「ギリシャよりずっと怖い経済大国の混乱 中国株ショック」、週刊ダイヤモンドも7月25日号で「市場動乱!中国・欧州危機の真実 中国・ギリシャ本当の危機が始まった!」、週刊エコノミストは7月28日号で「中国・ギリシャ終わらぬ危機」と3誌とも同時に同じテーマを追った。
◆新機軸望み薄い中国
特集全体の論調は3誌とも見出しに現れているように、ほぼ同じだが、それぞれ一つ一つの記事を見ると興味深いものがある。例えば、週刊東洋経済では、中国経済をテーマにキャノングローバル戦略研究所研究主幹の江口清之氏と富士通総研主席研究員の柯隆氏による対談が掲載されている。その中で柯氏が中国の今後について「中国経済を持続的に発展させていくための一番の鍵はイノベーションが起きるかということ。そのためには、国有企業の独占体制を崩し、知的財産権の保護。……中国経済のサステナビリティ(持続可能性)について何をもって担保とするか、これが問われている」と語る。
すなわち、中国経済が持続発展するためには、「新しい価値の創造」が必要なのだが、それを支える体制が未だにとれていないことであり、またそれを可能とする保証がないというのである。市場経済を導入したとはいえ、共産主義を国是とし、一党独裁と国有企業独占を柱に進めている中国では、健全な持続的発展は決して期待できないということは自明の理なのである。同国の内部矛盾はさらに膨らんでいくことは必至と言わざるを得ない。
もう一つ、ギリシャ危機について週刊エコノミストにみずほ総合研究所チーフエコノミストの高田創氏がとても分かりやすく解説している。すなわち、①ユーロ圏の本質的な解決法は黒字国から赤字国への何らかの方法による財政移転しかない②しかし、ユーロ圏では財政移転は許容していないため、ギリシャへの特別扱いはできない③その結果、ドイツへ黒字が集中して発言力が強まり、逆にフランスの立場は低下する――という。
◆EU問題日本と対比
それを日本と比較して高田氏は、「日本の47都道府県は、共通通貨の円を用い、税収面の格差は地方交付税を通じて是正している」と述べ、ギリシャを日本の地方に例えて、観光以外に強い産業のない経済力の弱い自治体のようなものであり、地方交付税(財政移転)をもらわなければ存在そのものが不可能となると説明している。が、現在のユーロには財政移転できないという制度的欠陥があるという。
もちろん、高田氏の主張は抜本的な解決法であり、ある意味で極論に近いものと思われるが、振り返ってEUの歴史をひもとけば、かつての悲惨な戦争を繰り返さないための「欧州大陸の平和実現」を目的として結成されたものだった。そうした視点に立てば、高田氏の主張も納得するのである。
政治的、経済的に「一つの大陸」を実現するには、「一人勝ち」ではなく格差のない域内経済圏をつくることができるか、どうか。共産党一党独裁で国民の自由を制限し、その存続・持続のために強制力をもって政治、経済を動かす中国の現体制は何時まで続くのか。どちらも今、歴史の実験場に置かれている。
(湯朝 肇)





