反安保法制から人命の肩代わりが目的と戦死連想させるサンモニ

◆討論避けた日曜討論

 安全保障関連法案をめぐっては衆院を通過してなお喧しい。平和安全法制特別委採決はプラカードの野党議員で騒然、本会議(7月16日)は反対野党が退場し、まだ対決冷めやらぬ19日のNHK「日曜討論」は討論ではなく司会の島田敏男氏による各党代表者とのインタビューになった。

 こと安保問題となると最終的には議論が成り立たなくなる。――そんな光景は特別委採決で反対して泣き叫んだ女性議員の姿などに現れているが、討論の看板番組が討論を避けた異例の形式にも、妙に納得がいってしまう。

 かつて国連平和維持活動(PKO)協力法の時は、自民党の柿澤弘治衆院議員がテレビ朝日の討論番組「朝まで生テレビ」で反対派の若者から暴行を受けたことがある(1992年6月)。政治家同士でそれはないだろうが、特別委の空気がスタジオに持ち込まれたら、司会の交通整理も容易でなかったろう。

 同インタビューで自民党の高村正彦副総裁は、法案は「すべて改正」であり自衛隊法や自衛隊を海外派遣するPKO協力法などの制定時に大転換の議論は既に行ったと指摘し、「その時その時の世論に頼ったら自衛隊もできていない。日米安保条約もできていない。改定もできていない。あるいはPKO法もできていなかった。その都度、大多数の憲法学者は憲法違反だと言ってきた。…国民の平和と安全に本当に必要だと思えば、多少支持率を下げてもやってきたのが自民党の歴史だ」と述べた。

◆映像で読む反対運動

 実際、内閣支持率は下がったが、テレビ報道の影響も大きいだろう。映像で成り立つテレビでは視覚に訴える法案反対のパフォーマンスがたびたび流れ、ナレーションが語らなくてもデモのプラカード、スローガンが視聴者に伝わる。「子どもを戦場に送るな」「殺すな殺させるな」など扇情的な文句とともに、法案を「戦争法案」と呼んで戦時下を思わせ、戦後70年の終戦記念日が近づいて話題となる太平洋戦争当時と混ぜ合わせた印象を醸して「安倍政治に反対」を唱えるからだ。

 反対運動について自然発生的に報じるのも疑問である。TBS「サンデーモーニング」は「風をよむ」のコーナーで高校生が大学生らと「国会前で毎週行われる安保法制に反対する抗議行動」に参加していると報じた。ラップ調のリズムでアピールする様子は、かつての「歌って踊って恋をして」の焼き直しのようだが、「高校生団体T-ns SOWL」のテロップ紹介が出る映像の若者の白いシャツには「SEALDs」のロゴがあり、共産党機関紙「しんぶん赤旗」に頻繁に取り上げられている安保法制に反対デモを組織する学生団体名と同じである。

 「シールズ」は、中心メンバーの大学生が夕刊紙「日刊ゲンダイ」に「全労連さんから車を借りたのは事実です」(7・26)と述べ、共産党系労組の全労連から街宣車を借りる関係を認めている。番組では大半は無関心な高校生を取り上げていたが、選挙権年齢18歳引き下げで来年参院選からのティーンズ票をめぐり政治の影響は高校生に及び、すでに反安保法制で囲い込みの働きかけが始まっていると見える。

◆今更論の田中氏講釈

 同番組にスタジオ出演した福山大学客員教授・田中秀征氏は、「集団的自衛権を行使するのは米国の関与した戦争を日本が手伝うことだ」と反対を表明し、黒板に書かれた「①資金②人命③危険」のうち、②③の肩代わりが目的と講釈した。また、「米国と日本の軍事的一体化」だから「敵対国からすると米国本土を襲撃するよりも日本を襲撃する方が手っ取り早い」と冷戦時代からの安保反対論の語りである。が、「敵対国」を示し、自衛隊の「お手伝い」能力と政権の意思を検証しなければ印象操作というものだ。

 さらに、「法案は解釈改憲で裏口入学」「軍事的に一体化したら取り返しがつかない。後戻りできない」と力説したが、なにを今さら論というものであろう。憲法解釈で発足した自衛隊が日米安保条約で米軍と共同対処する構造があり、日米同盟でしか抑止力は働かない。既に日米は「後戻りできない」のであり、共同する米艦の防護など自衛に集団的自衛権を伴う部分も想定するのが自然だ。

 田中氏は「お手伝い」の表現で必要以上に外国戦地(③)に赴いての戦死(②)を連想させて、政府がやらない部分の「集団的自衛権行使」にまで踏み込んでいると言えよう。

(窪田伸雄)