株価の乱高下で中国当局の露骨な市場介入をそろって批判する各紙
◆景気実態に日経警告
中国経済が怪しくなってきた――。最近の中国株式市場の株価の動きは、その兆候の一つとみていいだろう。
中国の代表的な指標である上海総合指数は、昨年後半から急ピッチで値を上げ、今年6月半ばには、前年の約2・5倍の水準になったが、その後は急落に転じ、この3週間でピークから3割も下落。
つれて、東京市場も先週後半から平均株価が2万円を割り込むなど、ギリシャ問題に加えて中国株式の動きが市場の不安要因に加わった形である。9日以降は中国当局の介入などで同指数は反発しているが、不安が完全に拭えているわけではない。
各紙は世界第2の経済大国である中国の変調に対し、相次いで社説を掲載した。最も早かったのは、経済紙の日経で、8日付の見出しは「株価急落で懸念深まる中国の景気実態」である。
その後に掲載された社説(9日付で毎日、10日付で読売、産経、東京、12日付で朝日)がいずれも、当局の「統制」(毎日)や「介入」(読売など)を中心に批判したのに対し、日経は「中国の景気実態を映している面が大きいとみられ、懸念を深めざるを得ない」と、中国の景気そのものに憂慮の念を示した。
もちろん、日経も当局の株価下支え策に対しては、「企業が業績を改善する取り組みを鈍らせかねない」と指摘し、習近平政権が中長期的な経済改革の原則とする「市場に決定的な役割を果たさせる」方針にもそぐわない、と強調する。他紙が後日の社説で指摘した内容とほぼ同様である。
ただ、日経が他紙との違いをみせたのは、「慌ただしい当局の対応を踏まえると、中国の景気実態について一段と慎重な見方をすべきだろう」と景気実態にも目を向けた点である。
◆「官製バブル」を批判
日経社説は8日付。つまり、中国当局がそれまでに行ってきた株価対策――金利の引き下げや証券業界による総額1200億元(約2兆4000億円)の上場投資信託の購入など――でも株価の下落に依然歯止めがかからない時点である。
その後の、企業の大株主に対して改めて保有株式を今後6カ月間売却しないよう指示したり、公安当局が「悪意のある」株式空売りをめぐり捜査に着手するなどして9日、10日には反発、続伸する前の段階だっただけに、景気の実態に目を向けやすかったということもあろうが、さすが経済紙である。
それにしても、各紙が批判する中国当局の株価下支え策は「強引」(読売など)である。読売はさらに、「認識すべきなのは、株式市場の混乱が、当局の失政によってもたらされたことである」と指摘したが、同感である。
不動産市況の悪化などで低迷した景気の下支えを狙い、株価をつり上げ、個人消費を刺激する政策に乗り出した。利下げを繰り返した上に、国営メディアを通じて株高はまだ続くとの観測を流し、投資家心理をあおった――読売はこう記し、景気対策のために「官製バブル」を生成させた責任は重いとしたが、その通りである。
今回の株価乱高下では、中国株式市場の特殊性に新聞社説は改めて言及。株式投資の8割が個人投資家で海外の機関投資家は参加が制限されていること、企業の判断で株式売買を停止できること、などである。
◆未熟さを各紙が指摘
制度や体制の違う日本にとっては驚きの内容だが、「当局による場当たり的な市場介入が、中国の株式市場の特異性を際立たせた面は否め」(読売)ず、「中国市場の未熟さも、混乱に拍車をかけた要因」(同)である。
東京は「残念ながら新たに取引を始めた個人投資家が未熟なら、政府や証券会社の対応もまた、未熟だった」としたが、それが世界第2の経済大国の株式市場なのだから、「未熟」で片付く問題ではないのは確かである。
当局のなりふり構わぬ株価下支え策について、産経は「習政権は、株式市場の混乱が政権への批判や社会不安につながるのを避けたいのだろう」と分析したが、さもありなん、である。
結局は、各紙が指摘するように、習政権が約束した通り、市場の透明性を高め、市場の役割を重視するほかはないのだが、共産党一党支配の社会主義国がどこまでできるかである。
(床井明男)