安保関連法案の成立求めた参考人・中山石垣市長の発言歪める毎日

◆異論封じの朝日社説

 「(朝日記者は)どれほどの国語能力を持っていたのか。朝日の入社試験を受けたことがないから知らないが、相当の国語能力がないと採用されないのではないか」

 地方創生担当相の石破茂氏の言である。昨年9月、朝日が東京電力福島第1原発事故の「吉田調書」をめぐる報道を誤報と認めた際、テレビ番組で述べた。むろん皮肉だ。どう見ても読み誤りようがない「吉田調書」を朝日が誤報と言い訳したからだ。

 国語力ではなく、意図的に事実を捻(ね)じ曲げ中傷記事に仕立てあげた。多くの識者はそう解釈している。それをなしえた朝日記者はその意味で相当の国語力の持ち主だった。

 そんな国語力が安保関連法案をめぐる記事でも垣間見られる。6日に同法案を審議する衆院特別委員会の参考人質疑が沖縄県那覇市と埼玉県さいたま市で開かれ、与野党推薦の参考人が意見陳述した。このうち、那覇市で行われた参考人質疑では野党側は稲嶺進・名護市長、大田昌秀・元沖縄県知事ら、与党側は中山義隆・石垣市長と古謝景春・南城市長で、それぞれ賛否の意見を述べた。

 ところが、新聞によっては稲嶺名護市長ら野党側の意見は詳述するが、与党側は都合よくつまみ食いしたり、黙殺したりした。とりわけ尖閣諸島を所管する中山石垣市長の扱いがそうで「異論封じ」とすら思わせた。

 その典型が「沖縄と安保 押しつけでなく対話を」と題する7日付朝日社説だ。反対派の稲嶺名護市長らの発言は長々と引用するが、賛成派の古謝南城市長の発言は「沖縄への無理解に対するいらだちにも似た思い」との部分だけを取りだし、発言の半分以上を占めた法案賛成論については書かない。中山氏の発言に至っては一言も触れない。

◆毎日「慎重」だけ強調

 毎日8日付社説「沖縄の不安 国会は誠実に向き合え」も、賛成派は話の端(つま)だ。中山市長については「『法案への理解が深まっているとはいえない』と慎重審議を求めざるを得なかった」と、「慎重」を強調する材料にしている。

 新聞の書く「慎重」は法案廃案の代名詞だが、中山氏もその意味で「慎重」と表現したのだろうか。中山発言は沖縄タイムス7日付「参考人意見要約」に詳しく載っている。

 それによると、2010年の中国漁船衝突事件は地元にとって「大きな衝撃」で、それ以降、中国公船の領海侵犯が頻発、「日々の環境は悪化し、現実的な脅威になっている」と強調している。

 さらに12年4月の北朝鮮のミサイル発射実験ではその軌道が石垣島上空だったので「市民を震撼させ、これまでにない大きな出来事となった」とし、「政府は国境離島に生活する住民の安全、安心を確保するためにも、しっかりと対応いただきたい」と、法案の成立を求めた。

 その中に「法案への理解が深まっているとはいえない」との発言があるが、それは次のように続く。「なぜなら戦争法案とか、地球の裏側まで行って戦争ができるとか、言論の弾圧行為にくみするものではないが、報道圧力問題など、法案自体の本論から外れた論議がなされている」

 つまり、マスコミや野党の論議のすり替えで法案への理解が深まっていないと批判しているのだ。中山氏は意見の最後ではこう述べている。

 「マスコミ、メディアも中身を論じ、国民世論を喚起してほしい。今般の法案に国民の理解が深まることを期待し、また現在の国際情勢、わが国を取り巻く環境を踏まえ、法案成立に一定の理解を示し、国会で慎重を期した議論がなされ、成立されることを求める立場で私の意見を締めたい」

◆法案潰しにすり替え

 中山市長の「慎重」の意味は安保の本質的論議を安全保障関連法案の国会審議で行うことを指し、あくまでも法案成立を願っている。それが左派新聞に掛かると法案潰しのための「慎重」として使われる。

 かくして尖閣諸島などの島々が市内にある石垣市のような国境離島の切実な不安の声は封殺される。それが朝日や毎日の「対話」「誠実」の中身だ。大した国語力と言うほかあるまい。

(増 記代司)