イランに「敗北」とワシントン・タイムズで批判するギングリッチ氏
◆核開発阻止は不透明
イラン核交渉で最終合意が交わされた。2002年に核開発疑惑が明らかになったことを受けて、国際社会はイランの核保有阻止へ、交渉を行い、制裁を科してきた。ようやく交わされた合意だが、1979年イラン革命以来の反米聖職者支配体制に変わりはなく、核開発を阻止できるか不透明だ。さらに、制裁の解除に伴いイランは巨額の資金を手にすることになり、過激組織への支援も懸念される。
欧州連合(EU)のモゲリーニ外交安全保障上級代表(外相)とイランのザリフ外相は会見で合意を「歴史的」と歓迎した。一方、イランが宿敵とみなすイスラエルのネタニヤフ首相は、合意を「歴史的な間違い」と激しく非難した。
「近年の外交史の中でも非常に重要な合意」(米紙ニューヨーク・タイムズ社説)と高く評価する見方もあれば、「イランが行動を改めなければ、核合意は最終的に失敗する可能性がある」(米紙ワシントン・ポスト社説)と合意の脆(もろ)さを指摘する声もある。
本紙姉妹紙ワシントン・タイムズのコラムニスト、ニュート・ギングリッチ元下院議長は13日付同紙で、「合理的に判断して、米国はイラン・イスラム共和国との36年にわたる戦争に敗北している」と強く非難、警告を発した。
◆威信を強めるイラン
合意の柱は、イランの核開発能力を制限し、査察・監視を大幅に強化する一方で、欧米側が経済制裁を段階的に解除することにある。
1年8カ月前に始められた今交渉は難航し、交渉場所を移しながら、延長を繰り返してきた。最終的には、軍事施設への査察を条件付きで受け入れるなどイランが譲歩した格好になったが、ギングリッチ氏は、「歴史家は、米国に対するイランの一連の活動を振り返り、力の弱い国が巨大な敵国を出し抜き、脅し、だまし、力を奪った数少ない例の一つとなったと結論付けるだろう」と長期的には米国の敗北と見ざるを得ないとの見方を示した。
イランが米国に「勝利」した点として、①中東地域の支配的な国家としてのイランを認めることになる②巨額の資金がテロやその他の軍事的活動の支援に使われる③核保有国への道を整えた――の三つを挙げている。
また、「米国のイランへの降伏」によって「直ちに及ぶ破壊的な影響」として、①凍結が解除される1500億㌦の資金の多くが世界中のテロ、軍事行動に充てられ、米国や同盟国への攻撃に使用される②制裁解除後、ドイツ、ロシア、中国企業との契約が交わされ、制裁の再開は非常に困難になる③核査察は延期され、妨害され、最終的にイランは核爆弾を保有する④米露中、欧州各国と対等の立場で合意が交わされたことで、イランの独裁政権の威信が劇的に高まり、周辺諸国に厄介な問題となる、としている。
また合意は期限付きであり、イランが「行動を改める」という期待を前提にしている。英紙フィナンシャル・タイムズは15日付社説で「イランの核開発は今後10年にわたり制限されることになったが、核兵器の開発能力を断つには程遠く、イラン政府が核兵器開発に向かった場合に時間がかかるようになるだけ」と警鐘を鳴らしている。
ホメイニ師はイラン革命時に米国を「大悪魔」と呼んだ。現在のイラン最高指導者ハメネイ師も核交渉が大詰めを迎えた先月、ツイッターで、米国を「大悪魔」と呼び、「どのように対応すべきかは明らかだ」と米国への嫌悪感をあらわにしたばかりだ。
◆オバマ外交は「幻想」
イスラエル、サウジアラビアなどは早速、合意を強く非難した。イランはレバノンのヒズボラ、パレスチナのハマス、イラクのシーア派民兵、イエメンのシーア派武装勢力フーシ派、シリアのアサド政権などを支援してきた。これらは経済制裁下でも続けられ、解除後は強化されるだろう。イスラエル、スンニ派アラブの国々にとっては国家の安全を脅かす重大な事態になりかねない深刻な問題だ。実際にシリアのアサド政権は直ちにイランに期待を表明した。
ギングリッチ氏は「オバマ氏は悪い合意か戦争かの選択だと主張するだろう。現状を分かっていない。われわれはすでにイランと戦争しているのだ」と指摘している。
オバマ氏は国際的な民主主義体制に取り込むことで、独裁国家を穏健化させることができると考えているようだ。だが、ロシア、中国に関しては完全に失敗している。
ギングリッチ氏はオバマ氏の外交を「ファンタジー」と呼んだ。イラン核合意も一時の夢に終わらないよう警戒が必要だ。
(本田隆文)