目下のギリシャ財政危機を尻目に日本に警鐘鳴らしたエコノミスト

◆各国を襲う財政危機

 ギリシャの財政危機が話題に上り、事実上デフォルト(債務不履行)状態となったその行方が注目される一方で、日本の財政問題も引き合いに出されることが多い。膨大な借金を抱える日本は“この先大丈夫か”ということだ。よく言われることだが、「ギリシャの債権者は海外投資家であるのに対し、日本の国債は大部分が国内で償還されるのでギリシャのようにはならない」との主張があるが、それでも不安が付きまとう。

 こうした中で週刊エコノミストが6月30日号で「財政危機」について特集を組んだ。テーマは「今そこにある財政危機」。特集は日本の財政問題が中心だが、各国の財政危機についても言及。現在のギリシャの状況は当然のこと、これまでの財政危機に陥った国を紹介している。

 例えば、1998年に起こったロシア危機。ロシアは1991年にそれまでの社会主義体制から市場主義経済に移行したが、政府も民間も脆弱(ぜいじゃく)で慢性的な財政赤字に陥っていた。そこに1997年のアジア通貨危機の直撃を受け、財政赤字と硬直的な財政運営が顕在化し危機に陥った。通貨ルーブルは大幅に下落し、インフレ率は85%以上上昇、市民生活はもろに直撃を受け経済活動は大きく混乱した。

 さらに、同誌は2001年のアルゼンチン危機を例に挙げる。通貨ペソのドルペック制(ドルと連携した固定相場制)が破綻(はたん)したためデフォルトが起きた。政府の金融政策の失敗により、産業競争力が失われ海外に資金が流出。それを防ぐために政府はすべての銀行の口座を凍結したところ、金融機関の破綻によって企業倒産が相次ぎ、失業率が増加。商店の略奪や暴動で大統領が辞任する羽目になった。

 今回のギリシャ問題においても欧州連合(EU)側はギリシャの国民投票の結果を見て対応するというが、すでにギリシャでは市民生活が大混乱し、かつてのアルゼンチンのようになる可能性もあるという。

◆日本黒字化に否定的

 ところで、日本の財政はどうだろうか。平成26年度末の国と地方を合わせた長期債務残高は1009兆円(対名目GNP比205%)。今から約30年前は200兆円程度(同63%)だったのを見れば5倍に膨れ上がり、OECD(経済協力開発機構)の中でも断トツの高さ。

 政府は6月10日の経済財政諮問会議で、プライマリーバランス(PB)を20年度に黒字化することを目標に掲げ、そのためにはまず18年度にPBを対名目GDP(国内総生産)比1%という新たな中間目標を設定した。ちなみに、PBとは、財政収支において借入金などを除いた税収などの歳入と国債など過去の借入に対する元利払いなどを除いた歳出の差をいうが、このバランスが均衡していれば借金に頼らない行政サービスを行うことができる。

 これに対して、同誌の見解は「(黒字化の)ハードルは高そうだ」と否定的だ。というのも、内閣府が今年2月、臨時閣議に提出した「中長期の経済財政に関する試算」を挙げて説明。名目GDP成長率を3%以上、実質GDP成長率を2%以上の「経済再生ケース」でも対名目GDP比でPBは1・6%の赤字、金額にして9・4兆円の赤字となると試算。また実質GDP成長率を1%にしても、対名目GDP比で3%、金額で16・4兆円の赤字になると見込んでいる。すなわち、内閣府が示した「経済再生ケース」の経済成長率を高くした試算でもPBの黒字化は難しいとの見通しを立てていることに加え、6月に示した新設定に対しても具体的な対応策が欠けていると訴える。

◆綱渡りの「3本の矢」

 これまで安倍内閣は、「3本の矢」すなわち、「大胆な金融政策」「機動的な財政出動」「民間投資を喚起する成長戦略」を掲げて取り組んできた。そしてそれは今のところ、順調に動いているように見えるが、綱渡り的側面がないわけではない。

 現在は異次元的金融緩和によって金利が低く抑えられているが、低金利がいつまでも続くわけではない。個人資産が多いとしても、天災や海外での突発的な事件あるいは世界的な経済環境の変化は日本経済に大きな影響を与える。日本の財政赤字に対して「不感症」に陥っている国民にとって、今回のギリシャ危機は「健全な財政」の重要性を教えている。

(湯朝 肇)