安保案件に「戦争」のレッテル貼り如何で揺らぐ世論を利用する朝日
◆秘密法でも世論調査
民主主義の基礎となった社会契約論には二つの流れがあるとされる。英国の思想家ジョン・ロックとフランスの思想家ジャン・ジャック・ルソーのそれである。
ロックが代表制と唱えたのに対して、ルソーはそれを真っ向から否定し、あらゆる決定を人民全員参加の集会で協議せよと主張し、後にフランス革命を主導する思想となった。どうやら朝日はその系譜に属するらしい。
論説主幹の大野博人氏は6月25日付「座標軸」で「安保国会を揺さぶる声」を誇り、代表制への不信を露(あら)わにしている。いわく、国会が大幅な会期延長を余儀なくされたのは、デモや集会、学者たちの発言等々、「カウンターデモクラシー」と呼ばれる選挙以外の回路を経た異議申し立ての声だ、と。
その異議申し立てに朝日はしばしば世論調査を持ち出し、安保関連法案は反対が上回っているとしてノーを突きつける。新聞が「戦争法案」のレッテルを貼り、テレビが反対運動ばかりの映像を流すので、世論調査(とりわけ誘導質問の多い朝日調査)ではそんな結果が出るのだろう。
だが、世論は移ろいやすい。一昨年暮れに成立した特定秘密保護法がそうだ。共産党は同法を「日本を戦前のような暗黒社会」に変え、米国とともに海外で「戦争する国」にする軍事立法と叫び、朝日や毎日、東京などの左派新聞も同様のキャンペーンを張った。朝日はたびたび、世論調査を行い、調査のごとに反対派が増えたと論じた。
当時、やり玉に挙げられたのは自民党幹事長だった石破茂氏で、国会周辺での「絶叫戦術」をブログで「テロ行為とその本質においてあまり変わらない」と書き、朝日から「テロ呼ばわりした」と痛罵された。今回は自民党勉強会が標的にされている。
特定秘密保護法が成立して1年半以上がたつが、暗黒社会に変わったと感じる国民の声はとんと聞かない。おそらく反対派は減少している。世論はそのように揺らぐ。
◆国策節目に常に反対
戦後70年、節目となった国策に朝日などの左派勢力はことごとく反対した。1952年のサンフランシスコ講和条約では「中立・軍事基地化反対」、54年の自衛隊創設では「子供を戦場に送るな」、60年の日米安保条約改定では「戦争に巻き込まれる」、さらに92年の国連平和維持活動(PKO)協力法では「違憲」が多数だとする世論調査を盾に反対した。
だが現在、これら国策に異を唱える人はほとんどいない。自衛隊の支持率は今や90%を超え、海外での活動を評価する人も約90%に上る(今年3月、内閣府調査)。戦後、戦争に巻き込まれなかったのは憲法9条ではなく、実にこうした国策にほかならない。
大野氏は前掲コラムで、大阪商業大学JGSS研究センターの調査(2012年)結果から、国会議員を信頼している人は25%弱だとする「興味深いデータ」を取り出し、代表制への不信を言いつのる。確かにどこの国でも国会議員に世評は厳しいが、12年調査(同センター・ホームページによれば、同年2~4月)といえば、民主党政権下で、政治への不信が渦巻いていたときだ。野田佳彦首相(当時)が“公約破り”の消費税増税を閣議決定し物議を醸していた。
その当時の世論調査をもって代表制(安倍政権)を批判するのはいかにも恣意(しい)的だ。民意は同年12月の総選挙に反映され、民主党は下野したのではなかったのか。
◆議会制民主主義の国
大野氏の言う「カウンターデモクラシー」は横文字では聞こえはよいが、代表制への一種の抵抗思想で、ルソーに通じる。フランス革命ではルソーの信奉者ロベスピエールが立憲君主主義派を抑え込み、政敵を次々と処刑して恐怖政治を敷き、マリー・アントワネットもギロチンにかけた。
むろん今日のカウンターデモクラシーはそこまで過激とは思わないが、危険な芽をはらむ。現に、この思想的流れにあるレーニンはロシア革命で皇帝一家を銃殺した。
とまれ朝日が護憲を唱えるなら、前文を読み返すことだ。冒頭に「日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し」とあるではないか。わが国はルソーやレーニンの国ではない。議会制民主主義の国なのだ。
(増 記代司)