拉致再調査1年 北朝鮮への圧力強化を検討すべきとする産、読、経
◆浮上する制裁強化論
家族は一日千秋の思いで、わが息子、娘を取り返す日を待っている――。
この4日で、北朝鮮が日本人拉致被害者について、特別調査委員会を設置し、再調査に着手して1年が過ぎた。再調査は1年をめどにして終えるとしていたのだが、北朝鮮は2日夜に、北京の外交ルートを通じて「いましばらく時間がかかる」として調査報告の延期を通告してきた。
これに対して政府は翌3日に北朝鮮に対し「今回の連絡は遺憾だ」とし、「日朝合意に基づく迅速な調査を通じ、全ての拉致被害者の帰国を含む問題解決を強く求める」と伝達。調査結果の早期報告を強く働きかけ、「さまざまな問題を判断していく」(菅義偉官房長官)構えで、北朝鮮の出方を注視していく。
一方、拉致被害者の家族らは報告延期を怒り、忍耐の限度がきているとして「北朝鮮に誠実に報告させるには、それなりに強いカードをちらつかせて要求しないといけない」(家族会の飯塚繁雄代表)と、被害者が帰国できない場合は強力な制裁の発動を訴えている。自民党内でも、拉致問題対策本部(古屋圭司本部長)が再調査で具体的な進展がなければ、北朝鮮への送金の原則禁止を含む制裁強化を求めている。
各紙の論調(社説・主張など)も「北朝鮮のこれ以上の時間稼ぎは認められない」(読売3日)などと今回の北朝鮮の報告延期には一様に厳しく批判したが、制裁の復活では圧力強化策の実施を検討すべきとする産経(3日)、読売、日経(4日)と、交渉維持で慎重な姿勢の朝日(5日)、小紙(4日)、両論の毎日(5日)とに分かれた。
◆北朝鮮の意図に疑念
まず、今回の調査そのものについて。「北朝鮮が誠実に調査にあたっているとは到底思えない」(朝日)、「本当に誠実な調査が行われているのかという疑問を拭うことはできない」(毎日)、「本当に誠実な調査を実施しているのか」(日経)と疑問を突きつけた。
これについては「いうまでもなく、北朝鮮は、自らさらった拉致被害者の現状については把握しているはず」(産経)だ。これを再調査という形式で受け入れたのは「あくまでも全拉致被害者を取り戻すための便法だったはず」(東京基督教大学教授・西岡力氏=産経7日「正論」)なのである。だから、問題は「そもそも調査結果を日本側に伝える意思があるのか」(日経)を見極めることが重要になってくる。
政府に戦略的な取り組みを求める読売は「調査が今後も進展しないなら、制裁の復活は避けられまい」「拉致問題に北朝鮮がどう対処するかを見極め、日本はそれに見合う措置を取る。『行動対行動』の原則を貫くことが重要」と説く。
産経も「行動対行動」の原則で「1年を経過して具体的報告が望めないなら、期限を切って解除した制裁を復活させ、新たな制裁を科すことを通告すべきだ」と主張し、制裁の復活などの見送りは「相手の思うつぼではないか」と警告した。
日経は、期限を区切って調査報告を求め「北朝鮮が応じないなら、経済制裁などの圧力強化を検討すべき」だと政府に求め、さらに「(昨年7月に再調査を始めた見返りに)解除した制裁を復活するのは当然」だとしたのである。
一方で毎日は「行動対行動」の原則をもとに「調査期間を延長しても進展がなかった場合には制裁復活を検討すべき」とするとともに「(独自制裁の復活も)むしろ北朝鮮に対話打ち切りの口実を与えるだけという懸念がある」ことにも言及し冷静な対応を求めた。
小紙は「拉致解決に責任をもとうとする以上、話は制裁復活だけで済むほど単純ではない。制裁なくして北朝鮮は動かないが、交渉維持はそれに劣らず重要だ」と制裁強化に慎重な政府の姿勢を理解した。
◆圧力のかけ方がカギ
朝日は自民党などから出始めた制裁強化の声に「だが北朝鮮に態度を硬化させる口実を与えるだけで、対話の芽を摘んでしまいかねない」と制裁強化を明確に否定している。
「被害者全員の帰国という目標達成は絶対に譲れない」(小紙)、「何よりもまず大事なのは、被害者たちの奪還である」(朝日)、「家族が求めているのは、あくまで被害者の一括全員帰国である」(産経)と見据えるゴールは同じだが、その結果を出すために北朝鮮に加える圧力のかけ方がカギを握るのである。
(堀本和博)