タイで日中が高速鉄道争奪戦
一歩先んじた日本
一帯一路で巻き返し図る中国
太田昭宏国土交通相は先月下旬、訪日したタイのプラジン運輸相と会談し、タイが計画する高速鉄道に日本の新幹線技術の導入を前提に、共同で事業調査する覚書を締結した。6年前から高速鉄道計画を始動させているタイ政府は、半世紀もの間、大きな事故もなく運営している日本の新幹線技術に高い関心を寄せてきたが、具体的に新幹線を明示した覚書は初めてとなる。これでタイの高速鉄道計画に日本同様、関心を持ってきた中国に対し一歩、先んじた格好だが、インフラ整備でアジアを大きく取り込もうとしている一帯一路計画をてこに巻き返しを図る中国の動きに目が離せない。(池永達夫)
インドでもつばぜり合い
今回、覚書を交わしたルートは、タイの首都バンコクと北部の中核都市チェンマイを結ぶ総延長約680㌔の路線だ。それ以外にもカンチャナブリー県・バンコク・サケーオ県を結ぶ路線、ターク県・ムクダハーン県を結ぶ路線と3路線の建設で協力し、効率性や沿線の観光振興を考慮したルート選定などの事業調査を実施する。総工費は日本円で約1兆円(約2800億バーツ)規模と試算されている同プロジェクトに、東日本旅客鉄道(JR東日本)や三井物産、日立製作所、三菱重工業の大手4社が関心を示している。実現すれば台湾新幹線に次ぐ新幹線輸出となる。安倍晋三政権が成長戦略で掲げるインフラの海外輸出にも弾みが付くことになる。
一方、中国は昨年末、ノンカイ・ラヨーン間、バンコク・サラブリ間の鉄道建設を受注している。ただ、バンコク・チェンマイ線のような高速鉄道ではなく、中国が構想する昆明とシンガポールを結ぶパン・アジア鉄道の一角を担う路線を受注している点が注目される。
中国の高速鉄道総延長距離は1万1000㌔を超え、自国内の大都市間は高速鉄道網をおおむね完成させつつある。高速道路に至っては総延長距離が11万㌔を超えて、世界でも米欧に次ぐ高速道路先進国に浮上している。中国とすれば、この高速鉄道網と高速道路網を近隣の東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国や中央アジアと連結させることで、アジアの覇権確立の布石としたい遠望と経済成長のエネルギーにしたい意向が働いている。
その意味からしても中国は、昆明とシンガポールを結ぶことになるタイのノンカイ(ラオスと隣接)・バンコク・バダンバザール(マレーシアと隣接)路線を何としても押さえておきたいのだ。
一方、タイとしてもこうした日中の高速鉄道受注合戦は歓迎だ。両国を天秤(てんびん)に掛けることでタイにとってより好都合な条件を引き出すバーゲニングパワーを獲得できる。何より今秋には人口約6億人という巨大市場を擁したASEAN経済共同体(AEC)が発足する。AECは域内の関税撤廃に加えて、サービス貿易の自由化、人の移動の自由化が図られる。そのためには高速鉄道という大動脈の整備は欠かせない基礎インフラだ。
こうした高速鉄道をめぐる日中の確執は、タイだけでなく東南アジアや南アジアでも展開される見込みだ。
わが国は、マレーシアやシンガポールにも新幹線建設計画で積極的にアプローチしているが、中国も抜かりはない。また、インドネシアでも日中の高速鉄道争奪戦は展開中だ。とりわけ激しいつばぜり合いを演じているのはインドだ。
モディ首相は昨年5月の選挙でデリー、ムンバイ、チェンナイ、コルカタの4都市を高速鉄道で連結する建設計画を打ち上げた。この4大都市連結高速鉄道網に食い込もうと、日中が競り合っている。
中国は先月、インドに代表団を派遣し、デリー―チェンナイ間の高速鉄道建設について実行可能性調査を行った。さらにモディ首相は先月中旬、訪中を果たしている。
一方、わが国は、インド政府に対し今年7月までに、ムンバイと同国西部のアフマダーバードを結ぶ全長500㌔の鉄道建設に関する実行可能性調査の報告書を提出する予定だ。











