財界期待の法人税減税を促し自然増収に太鼓判を押すエコノミスト

◆ショッキングな断言

 安倍晋三首相は、かねてより「法人税制のさらなる改革に着手する」ことを訴え、法人税の実効税率の引き下げを国の内外で吹聴している。事実、政府税制調査会では法人課税ディスカッショングループを設けて議論しているところ。また、政府は6月に策定する経済財政運営の基本方針「骨太の方針」に、来年度からの法人税実効税率引き下げを明記する方針だ。

 安倍首相は現在、「3本の矢」と称したアベノミクスを推し進めているが、中でも3本目の矢となる「民間投資を喚起する成長戦略」として法人税減税を訴えていた。ちなみに、現在の日本の国・地方の法人税実効税率は米国(39・13%)に次いで世界第2位の高さ(35・64%)に位置し、アジア諸国を見ても韓国(24・20%)や中国(25・00%)よりも高く設定されている。その一方で「これでは諸外国との競争に勝てない。国際競争力を阻害している。せめてアジア並みにしてほしい」という声が経済界にある。

 こうした中で法人税減税に関して週刊エコノミスト5月6・13日合併号が誌面を割いている。そこには「法人税の財源は自然増収でカバーできる」と、いささか“ショッキング”な見出しが目につく。この記事は、第一生命経済研究所の永濱利廣・首席エコノミストによる論文だが、「財政悪化を心配する声があるが、経済成長と企業改善で補える」と断言しているところが、いささかショッキングなのである。

◆財政赤字抱え慎重論

 というのも、法人税減税に対する反対は意外に多く、自民党内でも慎重論が多いからだ。慎重論の根拠の一つは、国民の声である。今年4月から消費税の税率が5%から8%、さらに来年10月には10%に増税される一方で、法人税を減税したのでは、「消費者冷遇、大企業優遇」と捉えられかねないというもの。さらにもう一つの懸念材料は、減税で失う税収をどのように補填するのか、それでなくとも我が国は巨額の財政赤字を抱えているのに、さらに赤字が膨らむのではないか、といった声が至る所にある。そうした批判に永濱氏は真っ向から反対意見を述べているのが勇ましい。

 法人税率を下げると税収が下がると思いきや、逆に税収が上がる。それを「法人税のパラドックス」と呼んでいるが、過去欧州にもそのような先例はあった。それが、日本でも通用するか、ということだが、永濱氏はまず「(法人税の実効税率を)現行の約35%から国際水準並みの25%に引き下げるとかなり(株価の)押し上げ効果になる」と株価の理論価格を算出する配当割引モデルを使って試算している。それによれば、法人税率の10%の引き下げは、日経平均株価を現行(1万5000円)よりも2300円ほど上積みさせることが可能で、1万7300円以上になるというのだ。

 さらに、法人税率の引き下げは、国内企業の業績を改善させ、それによって国内設備投資や雇用者報酬を拡大させ、個人消費を刺激する効果がある。また、日本の企業立地競争力が高まって外国企業の対日直接投資が増加し、雇用所得環境も改善すると説く。結局、税率引き下げは税の自然増収に結び付くというわけである。もっとも、永濱氏も急激な引き下げは、一時的に財政収支が悪化することから現実的な方策ではないとし、段階的な引き下げが有効だと提案する。ただ、同氏が根拠としているのは計量モデルを使っての試算であって、実際にそうなるかどうかはやってみなければ分からない、というのが実情だろう。

◆ビジネス立国目指せ

 甘利明・経済再生担当相は7日、法人税の実効税率の引き下げについて言及、「5年程度で20%台に引き下げたい」と意欲的だが、安倍政権としては国会での過半数を背景に法人税の実効税率を国際水準並みに下げることで成長戦略の要にしたいと考えているようだ。

 一方、法人税減税に対する経済界の願いは極めて大きいものがある。法人税パラドックスとなるかどうかは別にして、永濱氏の「世界で最もビジネスのしやすい国を目指すのであれば、法人税率引き下げを見送ることは避けなければならない」という考えはもっともと言える。

(湯朝 肇)