Nスペ「廃炉への道」に望む安易な反原発論と一線を画するシリーズ
◆風評被害招く可能性
5月5日の「こどもの日」にテレビ朝日で放送された「ここがポイント!!池上彰解説塾」で東京電力福島第1原発が取り上げられた 。
同番組ではジャーナリストの池上さんが、海外で原発需要が高まっていることに触れた上で、政府が原発再稼働を目指していることを解説。このコーナーでは、映像テロップを見たゲストの高木美保さんが「原発(の再稼働)ありきで進んでいく感じに見える」と政府のエネルギー政策を批判していた。すかさず北村晴男弁護士が「原発ありきかどうかが出発点ではなくて、我々の現在の生活ありきかどうかだと思う」と反論したが、再稼働を強引に進めていると誘導されやすい部分もあった 。
ところで、原発問題では小学館の漫画週刊誌「ビッグコミックスピリッツ」で長期連載している人気漫画「美味しんぼ」の内容が物議を醸している。4月28日発売の「福島の真実」編で、福島第1原発の取材から帰ってきた主人公が原因不明の鼻血を流したり、疲労感を訴える場面があり、「風評被害を招く」との批判の声が上がっているのだ 。
作中では、医者が「福島の放射線とこの鼻血とは関連づける医学的知見がありません」と述べているが、主人公と一緒に福島県へ行った人も「私も鼻血が出た」「福島に行くようになってからひどく疲れやすくなった」などと語るなど、福島県との関連性をうかがわせる内容になっている 。
原作者の雁屋哲氏は、かつて自身のブログで「なんとしても、反原発を推し進めるための努力を尽くさなければならない」(2012年1月7日付)とし、「反原発」の立場を明確にしている 。
批判の声が大きくなったことから、スピリッツ編集部は小学館のサイトに「鼻血や疲労感が放射線の影響によるものと断定する意図は無く」と掲載するなど異例の対応を見せた 。
原発問題は議論が分かれることが多く、時には特定の主張が入ったり、意図的ではないにしろ風評被害を招いたりすることもある。テレビの影響は漫画雑誌の比ではない。有名キャスターの一言で埼玉の野菜農家に深刻な風評被害をもたらした「ニュースステーション」(テレビ朝日、1999年)のダイオキシン報道の例もある。
◆新たなテレビ的挑戦
NHKは4月20日から「NHKスペシャル」の大型シリーズ「廃炉への道」の放送を始めた。同25日には第2回が放送され、今後は福島第1原発の廃炉までの様子を年に数回ずつ長期にわたって放送していく予定だという 。
NHKは番組のサイトで「数十年かかる廃炉の作業を、取材制作スタッフも代替わりしながら長期的に記録していく、新たなテレビ的挑戦としたい」と意気込む 。
廃炉が完了するまで30年とも40年とも言われている。その間の作業を記録し、何十年もシリーズを続けるのは、確かにこれまでにない取り組みだ。視聴率を求めて安易な番組作りをしがちな民放には、なかなか実現できない企画だろう 。
こと原発問題を扱う時、「原発推進」か「反原発」かという二元論に陥りやすい。そのような報道ばかりでは、いま現場ではどういう作業が行われているのか、どのようにすれば問題が解決するのかが、なかなか視聴者に伝わってこない 。
その意味で、福島第1原発で起こっている現状を綿密に追う番組は貴重なものになるだろう。いまは人が立ち入れない福島第1原発2号機の格納容器の真上で最新鋭ロボットが作業する場面など、容易には得がたい映像も流された。
◆過激派が反原発活動
東日本大震災で原発事故が起こって以降、インターネットを中心に根拠のない噂が多く出回り、問題視された。中には「反原発」という明確な目的のために、恐怖心を煽(あお)るケースも見られた 。
公安調査庁の報告書「内外情勢の回顧と展望」平成24年版には、過激派が「反原発運動の高まりを自派の勢力拡大・浸透の好機と捉え」て活動していると記されている 。
公共放送のNHKは、意見が割れている問題について、特定の主義主張のみを一方的に放送することはあってはならないことだが、偏った放送で過激派などの活動に利用されないようにも気をつける必要がある 。
そのために、これから何十年も続くという「廃炉への道」では、予断を持って番組制作したり、「放射能は怖いから原発をすぐにやめよう」とか「廃炉のために莫大なお金がかかるから今後は原発建設はしないほうがいい」といった安易な論に陥らないよう注文したい。
(岩城喜之)