原発ゼロの夏を前に「乗り切れる」過信に警鐘をならした産経と日経

◆原発早期稼働を訴え

 日中の気温が20度を超え、汗ばむ陽気が続くようになっってきた。冷房が恋しくなる季節が近づいている。

 そこで気になるのが、夏場の電力需要である。昨年は関西電力大飯原発3、4号機(福井県)の2基が稼働していたが、現在は全原発が停止中で、原子力規制委員会による17基原発の安全審査の終了時期が不透明ということもあり、東京電力福島第一原発事故後初めて「原発ゼロの夏」を迎える可能性が高い。

 経済産業省が4月17日にまとめた今夏の電力需給見通しによると、沖縄電力を除く大手9社で、需要に対する供給余力を示す予備率は全国平均で4・6%と、安定供給に最低限必要とされる3%以上は確保した。

 ただ、個別にみると、原発依存度が高い関電や九州電力は、電気の周波数が異なる東電から計58万㌔㍗の融通を受けて3%ちょうどと余裕は乏しい。融通がないと、関電は1・8%、九州電も1・3%とお寒い状況である。

 さて、そんな状況の中で、これまでのところ、産経(21日付)、日経(24日付)、朝日(28日付)の3紙がこのテーマで社説を掲げた。

 内容は予想通り、産経、日経が危機感をもって捉え、節電の励行や原発の早期再稼働を訴えたのに対し、朝日は「予想を上回る節電の定着」を強調し、「原発なしでは電気が足りず、電気代も上がる――電力会社はもう、そんな不安を前面に押し出す姿勢を改めるべきではないか」と電力会社批判を展開した。

◆朝日は過度に楽観的

 産経や日経が現状を厳しくみるのは、「原発の代替電源として老朽火力も酷使され、故障などによる突発的な大規模停電の恐れも高まっている」(産経)からだ。

 電力の供給不安は拭える状況にはなく、家庭や企業の節電はまだまだ緩められないが、景気が上向き、地域によっては電力需要の増加が予想されている。日経が「東日本大震災から4度目の夏となり、国民に『節電疲れ』が広がったり、大規模停電が起きなかった安心感から節電をやめる人が増えたりすることも心配だ」と指摘するのも尤(もっと)もである。

 政府は5月中に夏の電力需給対策をまとめる予定だが、これについても、日経は「経済活動を萎縮させないように企業や家庭に自発的な節電をどう促すか。具体的な節電メニューを示してほしい」と指摘し、経済紙らしい論調を示している。

 それに比べて、先述の朝日の批判である。産経や日経が指摘する、老朽化した火力発電を点検も延ばしてまで稼働させて電力を供給している現状や、火力発電の燃料費がかさんで電気料金の上昇が続いていること、輸入燃料の増加が貿易赤字拡大の一つの要因になっていることなど、朝日はどうみているのか。それでも、果たして節電が「定着」していると言えるのかどうか。

 朝日のこうした現状への甘い認識は、先の需給見通しに関する報道でも窺(うかが)える。

 例えば、見出しで比較すると、読売「原発のない夏 電力綱渡り/関電・九電 応援で最低量確保」に対し、朝日「夏の電力、東西融通へ/関電・九電、やっと余裕」である。そして、記事は「原発が再稼働しなくても、今夏のもっとも電力が必要な日を乗り切れるとの見通しが…」で始まる楽観トーンぶりである。

◆火力リスク説く毎日

 このニュース記事で、特に興味を引いたのが、朝日と同様、社説で脱原発を主張している毎日である。

 「夏の電力不足『回避』 関電、九電 他社頼み/老朽火力の故障懸念」との見出しで、記事のリード文でも「…他社から電力融通を受けて、ようやく3・0%に到達。発電所トラブルのリスクも抱えるなか、今夏の電力需給はぎりぎりの綱渡り…」と記述する。

 本文でも、今年3月に定期点検中のJパワー松浦火力2号機の作業事故から電力需給を検討する経産省の検証小委員会がずれ込んだ経緯から始まり、特に関電については「今夏は最大供給電力の8割を火力発電に依存し、このうち2割は稼働から40年以上経過した老朽火力発電所だ」「西日本の火力7発電所は4年以上定期検査を行っておらず、故障リスクは高まっている」などと厳しい現実を報じる。

 この記事を、脱原発派の同紙論説陣はどう読むのか。この記事が同紙の社論転換の契機となるのか注目したい。

(床井明男)