景気失速を懸念しながら主因の増税を支持した各紙社説に反省なし

◆予想以上の落ち込み

 2019年10~12月期の国内総生産(GDP)速報値は、実質で前期比1・6%減、年率では6・3%減と5四半期ぶりのマイナス成長となった。

 マイナス成長は大方の予想通りだが、落ち込み幅は民間シンクタンクの予想(10社平均で年率3・6減)を大幅に上回るものだった。

 各紙社説の見出しを列挙すると次の通り。18日付読売「景気の失速を防ぐ正念場だ」、毎日「消費悪化の連鎖が心配だ」、産経「危機的状況の認識を持て」、日経「日本経済は予断を許さぬ局面を迎えた」、東京「雇用への波及防がねば」、19日付本紙「景気後退入りが不可避に」――(19日までに朝日はなし)。

 いずれの社説も、今回の結果を危機的状況と捉え、政府や日銀、企業に懸命な対処を求める。一見、尤(もっと)もな論調である。

 今回の危機的状況を招いた要因は大きく三つ。昨年10月の消費税増税、台風や暖冬の影響、米中貿易摩擦である。そのうち、GDPマイナスに大きく影響したのは、その6割近くを占める個人消費の落ち込みであるから、主因は消費税増税であると言える。

 その増税を本紙と東京を除く各紙は、財政健全化のために積極的に支持してきたことを思うと、各紙の論調が怪訝(けげん)に思える。自らが主張し支持したことが招いた結果に対して責任をどう感じているのかという点である。先に「一見、尤も」と評したのも、このためである。

 本紙は増税について、国内景気が弱く力強さもない中、米中摩擦、それに伴う世界経済の下振れという時期、環境の悪さから慎重であるべきで、実施すれは景気後退の契機になると懸念してきた。過去の経験もあり、増税すればどういう事態になるかは他紙も予想がついたはずである。

◆非を認めず安倍批判

 読売は個人消費の落ち込みについて、「前回の消費増税後(4・8%減)よりは下げ幅が縮小した」とし、軽減税率やキャッシュレス決済へのポイント還元などが消費をある程度下支えしたが、駆け込み需要の反動減を吸収しきれず、台風19号や暖冬による売り上げの減少も響いた、と記述するのみ。

 内需のもう一つの柱である設備投資についても、米中摩擦を背景に3・7%減と低迷したと指摘し、輸出も0・1%減だったとして、「内需と輸出がともに振るわないのは心配だ」と指摘した。

 では、なぜ、「心配」とするような事態を招いた消費税増税を、米中摩擦の最中という時期に実施する必要があったのかについては言及がない。

 毎日も同様である。毎日は、政府は増税前に2兆円規模の手厚い経済対策を講じたが、それでもマイナス幅は14年の増税直後に記録した(年率)7・4%減以来の大きさになったとした後で、「ここまで悪化したのは、消費がそもそも増税前から低調だったからだろう」と指摘した。

 その通りである。そうと知りながら、そんな状態の中で増税などできるはずがないのに、同紙は増税実施を主張し支持した。今回の社説でも書いているが、「消費税は高齢社会を支える重要な財源だ」という理由である。加えて、増税に向けた環境整備を「繰り返し約束してきた」ものの、「消費底上げが後回しになってきたアベノミクスの問題点を直視すべきだ」という安倍批判で、自らにはまるで非がないという書き方である。

◆新型肺炎の影響懸念

 消費税増税を是としてきた日経は、「落ち込みは大きいが、5四半期ぶりのマイナス成長は想定内だ。懸案はここから先である」とした。懸案とは、各紙も指摘する新型肺炎の感染拡大の影響である。

 同紙は、世界経済が一気に腰折れすると過度に悲観するのは時期尚早だとしながらも、20年1~3月期に成長軌道に復帰するという当初のシナリオが新型肺炎で「揺らいで」おり、見出しの「日本経済は予断を許さぬ局面を迎えた」というわけである。そうした局面に至らしめた主因は増税なのだが…。

(床井明男)