各紙批判の20年度予算案論評でも気になる読売の消費増税への傾き具合
◆改革必要な社保制度き
「『100兆円』は持続可能なのか」(読売)、「健全化遠い実態直視を」(朝日)、「『身の丈』に合わぬ放漫さ」(毎日)、「歳出の改革は置き去りか」(産経)、「財政の持続性に不安残す来年度予算案」(日経)、「財政再建は置き去りか」(東京)――。
政府が20日に閣議決定した2020年度予算案に対して各紙が論評した社説の見出し(21日付、東京のみ23日付)である。ちなみに本紙は「成長持続と強靭化で大型に」(22日付)。
列挙した通り、保守系もリベラル系も厳しい批判のオンパレードである。批判の内容は一言で言えば、財政規律の緩みであり、結論として、社会保障費の抑制など「本格的な歳入・歳出改革に着手」(読売)せよ、ということになろうか。
各紙の批判には、確かに一理ある。特に一番の歳出項目である社会保障費は、22年から団塊世代が75歳以上の後期高齢者になり始め、増加が加速する。読売などが「持続可能な社会保障制度の実現に向け、改革を急ぐ必要がある」というのも尤(もっと)もである。
また、朝日が指摘する「歳出面の硬直化」、つまり歳出の7割超を社会保障費と国債費、地方交付税が占めているため、その上に政権が重視する政策を積み重ねれば、どうしても歳出は膨らんでしまう。「新たな分野に予算を振り向ける余裕は乏しく、公的サービスを安定的に維持することすら、危うくなりかねない」(朝日)からである。
◆現実的でない再増税
だが、毎日が言う「身の丈」に合わない放漫財政、という批判はどうか。同紙は「身の丈」がどういうレベルか具体的に示していないが、多分に基礎的財政収支(PB=プライマリーバランス)がゼロ、要するに政策的経費は税収(税外収入も含む)の範囲内で、ということなのだろう。
今回の20年度予算案では、PBの赤字が9・2兆円と3年ぶりに悪化したが、それは政府の「大盤振る舞いは目白押し」(毎日)となったためとの批判である。
しかし、「大盤振る舞い」がなくても、財政の現状は「身の丈」にはなり得ない。同紙も文中では、「財政を立て直す道筋を明確に示す必要がある」で、9兆円前後の歳出削減は求めていないようである。言葉のアヤにしても、見出しの「身の丈」は誇張にすぎよう。「身の丈」にするには相当の歳出削減か、さらなる増税が必要になり、政策としても現実的でない。
この点では、読売の「厳しい財政事情を考えれば、消費税率のさらなる引き上げを封印できる余裕はなかろう」との指摘も、やはり現実的でないだろう。
この指摘は、安倍首相が7月に再増税について「今後10年くらいは必要ない」との認識を示したことに対してのものだが、まずは税率10%での状態で経済を安定した拡大軌道に乗せる必要があり、そのために、20年度予算案でも増税に対する景気対策を実施したわけである。
財政健全化のためとして、増税を重ねていけば、同紙がこれまで実現を強く主張してきた経済の好循環は望むべくもないであろう。
◆既存の歳出見直しも
日経は社説の最後に「財政健全化は経済成長で税収を増やすのが一番だが、社会保障などの一段の歳出改革も避けては通れない」とした。
これまで財政健全化には消費税率の引き上げが必要との論調を展開してきた同紙だが、今回の社説では、読売のようなさらなる増税には言及せず、診療報酬改定の在り方や、防衛関係費で効率的な歳出になっているか精査が必要など、歳出の中身について重点を置いていた。論調を変えたのか、変えつつあるのかは分らないが、妥当な指摘である。
産経も「既存の歳出を見直し、選択と集中を大胆に進める改革も必要だ」と強調した。
この点からも、読売の消費増税への傾き具合が気になるばかりだ。
(床井明男)