この10年の中東・北アフリカの10大ニュース、トップは「アラブの春」

◆各地で第2波蜂起も

 年末を迎え、各メディアで今年の10大ニュースが取り上げられている。今年は2010年代の最後の一年でもあり、ニュースサイト「ニュー・アラブ」は、「10年の終わり―中東を劇的に変えた10の出来事」と、中東・北アフリカの激動の10年を振り返っている。

 1位は何といっても「アラブの春」。10年末にチュニジアで発生し、中東全域に広がった民主化運動だ。

 失業、警察からの嫌がらせに対し露天商が抗議の自殺をしたことから、反政府デモが全国に拡大し、当時の長期政権ベンアリ大統領の退陣へとつながった。

 反政府デモは、エジプト、リビア、イエメン、バーレーンなどに飛び火し、政権交代や内戦に発展したが、ニュー・アラブは、「激しい抗議行動は短期間で終わり、12年12月までには下火となった」ものの、現在、「アルジェリア、レバノンなどで第2波」の蜂起が起きていると指摘。「第1波がなければ、これら抗議行動は起きなかっただろう」と今年に入って中東各地で頻発する反政府デモとの関連性を強調している。

 今も、内戦、激しい弾圧が続いている所がある一方で、「チュニジアだけは、第1波が続き、立憲民主主義への移行を成功させた」と評価した。

◆内戦が難民危機招来

 第2、第3位はシリアとイエメンの内戦と難民危機、人道危機だ。

 シリアでは、11年3月に反政府デモが発生し、「1971年から続いてきたアサド家支配が初めて、危機に直面した」。ロシアとイランがアサド政権を支援、米国が手を引いたことから独裁政権存続は確実で、ニュー・アラブは「最悪の難民危機を招来し、1100万人が難民となり、1350万人が国内で人道支援を必要としている」と内戦の被害の大きさを強調している。2012年のシリア人口は2240万人とされており、国民の約半数が国内外で難民となっていることになり、被害の甚大さを物語っている。

 イエメンでは、反政府デモに続く混乱の中で、イランの支援を受ける反政府武装組織フーシ派が台頭、隣国サウジアラビアなどとの激しい戦闘が繰り広げられた。「10万人が死亡したとみられ、今年だけで25万人が難民化。人口の80%が人道支援を必要としている」という。

 第4位は、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、バーレーン、エジプトの4カ国とカタールとが激しく対立した「湾岸危機」。4カ国が経済制裁を科し、国交断絶にまで発展した。原因は、カタールがイスラム過激派を支援し、サウジの仇敵イランと関係改善したことだが、カタールはこれを否定している。カタールがイスラム組織「ムスリム同胞団」に近いことは以前から指摘されており、同胞団を過激派とみるその他のアラブ諸国の怒りが我慢の限界に達したということか。

◆ISは意外にも10位

 5位にイスラエルのパレスチナ占領政策の強化。エルサレムの首都承認、米大使館のエルサレム移転など、トランプ米政権のイスラエル寄り政策の後押しを受けたもので、14年に停止した和平交渉はさらに遠のいた格好だ。

 さらに、イラン核合意と米国の離脱、トルコのクーデター未遂、イスラエルのガザ地区攻撃、サウジのムハンマド皇太子昇格と続く。世界を震撼させた過激派組織「イスラム国」(IS)は10位。日本から見るともっと上位ではないのかと意外な感じもするが、現地の肌感覚としてはこんなものなのか。

 14年にイラクからシリアにかけて樹立を宣言した「カリフ国家」は消滅、10月には最高指導者バグダディ容疑者が、米軍の作戦で追い詰められ自爆死した。

 ニュー・アラブは、「地域の安定への脅威として再び台頭するのではないかと不安の声も多い」と指摘、テロの不安は新たな10年も続く。

(本田隆文)