外国誌が新年の展望を特集する一方でスキャンダルで売る日本の各誌

◆無力化する戦後秩序

 大きな変化の予感を抱きながら令和元年を送る。変化の正体はまだぼんやりとしていて輪郭を現さず、人々は予感と不安を抱えたまま2020年を迎えることになる。

 どこかの碩学(せきがく)が時代を読み解き、将来への見通しを示してくれることを漠然と期待してみるものの、なかなかそんな人物や思想は現れてこない。

 ニューズウィーク日本版(12月31日・1月7日新年合併号)が新年の展望を載せた。「イシューズ2020」―無秩序化する世界を読み解く12の論点―だ。

 冒頭に「同誌コラムニスト、元CIA(米中央情報局)工作員」のグレン・カールが書く。「伝統回帰の大波が戦後秩序を無力化する」との題だ。彼は「西洋社会の『リベラル』な経済的・社会的・政治的価値観は20年以降、かつてないほど強力な挑戦を受けることになる」と見通す。その挑戦とは何か。「人口・技術・温暖化」である。この「3つのトレンドは今後も世界中の経済に深刻な影響を及ぼす」と言う。

 そして「2020年に政治や経済に何が起きるにせよ、中国の台頭や世界の人口増加、高齢化、大規模な人口移動、急速に進む技術変化と経済発展、そして環境への負荷は、(略)世界の経済の秩序を侵食し続けるだろう」とし、「1945年以降で最も危険な変化の時代が私たちを待っている」と稿を結ぶ。これだけ危機感を煽(あお)っておきながら、解決策は何も提示していない。

 「米ジョージタウン大学教授のサム・ポトリッキオ」は「トランプ再選にこれだけある根拠」を書いた。大きな理由は二つだ。まず「アメリカ経済が好調であること」。そして「民主党がトランプに優る選択肢を提示できていないこと」だ。どこかの国も似たような状況だが、ともかく米ではトランプ再選が濃厚だとの予想である。

 こんな見通しを出さざるを得ないことがよほど悔しかったのか、ポトリッキオは「トランプの再選は、国が地政学的にも経済的にも好調なため、有権者が無能な指導者を大目に見てもいいと考えていることを示す」と皮肉交じりの分析を加えた。リベラルの悔しさがにじみ出ていて笑えてくる。

◆中国で権力闘争激化

 次は中国だ。「産経新聞外信部次長の矢板明夫」が「『皇帝』習近平は盤石に非ず」と分析した。「米中関係」「香港」「経済」「台湾」の「4大問題」が習政権を悩ましており、対米経済交渉でも「弱腰的な姿勢が目立った」ことで、「共産党内から習政権を疑問視する声が公然と出て、権力闘争が激化する可能性もある」との見通しを示した。国賓来日は習の挽回に手を貸すようなものか、について矢板は書いていないが。

 この他、欧州連合(EU)、ロシア、インド、イランが取り上げられ、ようやく日本の安倍政権が出てくる。大騒ぎをしている日韓関係は2行のみ。対米、対中外交が日本外交の主軸で、外交の「見える化」が必要だと「同誌コラムニストの河東哲夫」は言う。こういう扱いが世界規模で見た場合の日本の立ち位置だということをよく示している。

 「世界経済フォーラム会長のクラウス・シュワブ」の「政治家に頼らない民主主義2.0の可能性」も興味深い。アイルランドで各界の無作為に選出された議員が課題を議論して法案をまとめ、国民投票にかけた例を紹介している。選挙で選ばれた議員と議会の無意味化に等しい。「多くの国で政治指導者が改革を実行することが難しくなっている」からで、「民主主義2.0」バージョンは今後のトレンドになりそうだ。わが国でも既に多くの自治体で市民議会が動いている。

◆新春号で大臣の不倫

 こうした話題を取り上げる外国誌に比べて、相変わらずスキャンダルで誌面を売っているのが日本の週刊誌だ。週刊文春(1月2・9日号)が小泉進次郎環境相の「不倫」と「政治資金」の記事を載せた。入閣以来、メッキが剥がれたのか、叩(たた)かれっぱなしだが、ついに女性関係が暴かれ、「将来の首相候補」の名が薄汚れ始めている。

 国民以上の政府がないように、読者以上の週刊誌もない。新春特集号に大臣の不倫記事を載せる週刊誌が国民と政府のレベルに釣り合うと言うなら、冒頭の「不安」も避けようがないのだろう。(敬称略)

(岩崎 哲)