香港緊急条例 法治の破壊につながる悪法
香港政府は、超法規的措置が可能となる「緊急状況規則条例」(緊急条例)を約半世紀ぶりに発動し、これに基づいてデモの際にマスクなどで顔を隠すことを禁じる「覆面禁止規則」を即時公布した。
集会や通信の規制も可能
緊急条例は行政長官の権限を大幅に強化するもので、長官と長官の諮問機関である行政会議が「緊急事態」だと判断した場合、立法会の審議を経ずに「公共の利益にかなったいかなる規則」も定めることができる。長官の判断一つで、集会や通信の規制、財産の差し押さえなどもできるとされる。
覆面禁止をめぐっては、ガスマスクやゴーグルの着用など顔の見えない状態がデモの過激化を助長しているとの指摘があった。林鄭月娥行政長官は、過激化する抗議運動に警察力だけで対応するのは難しいとの見解を表明。「暴力行為がさらにエスカレートすれば、適切な方法で対応する」と述べた。
今後も緊急条例を活用し、インターネット上の言論統制やデモ隊の拘束期間の延長などを実施することも考えられる。しかし、こうした措置は香港の法治や三権分立を破壊しかねず、極めて憂慮すべき事態だ。
条例発動の背景には、香港政府が自力でデモを鎮静化するよう促す中国の習近平政権の圧力がある。習政権は、武力介入は国際社会の反発を招くだけでなく、デモ隊をゲリラ化させる恐れがあると見ているようだ。
これまで習政権は香港に適用している「一国二制度」について、香港独自の制度よりも「一国」を優先する姿勢を示し、香港への政治的締め付けを強めてきた。しかし、こうした強権的な姿勢が香港市民の反発を招いているのではないか。
1984年の英中共同声明では、中国は一国二制度に基づいて中国の社会主義を香港で実施しないとしている。国際公約に反し、一国二制度を形骸化させることは許されない。緊急条例発動後も、反発する多くの市民がマスク姿で香港島中心部を行進。香港大など香港の12大学の学生会は条例と覆面禁止規則を「悪法」と激しく非難し、抗議する声明を連名で発表した。
デモ隊は「五大要求」を掲げ、香港政府は抗議活動のきっかけとなった逃亡犯条例改正案の撤回は認めたが、普通選挙の実施など残る四つを受け入れる気配は見られない。若者の中には、非暴力デモで現状が変わらなかったため、過激な行動に走るケースも出てきている。中国政府や香港政府は、自分たちのかたくなな姿勢がデモの過激化を招いていることを自覚すべきだ。
一方、一連のデモでは10代の少年2人が警官隊の銃弾を受けて負傷した。デモ隊への強硬姿勢が強まることが懸念される。
習主席の来日撤回検討を
習国家主席は来春、国賓として来日する。これに関し、安倍晋三首相は臨時国会の所信表明演説で「日中関係を新たな段階へ押し上げていく」と述べた。
しかし、香港の一国二制度に基づく高度な自治が脅かされている現状をどのように考えているのか。首相は香港を支えるため、習主席の来日招請撤回も検討すべきだ。