豊洲開場1年、五輪をブランド確立の好機


 東京・豊洲市場が旧築地市場から移転・開業して1年が経過した。心配された土壌汚染問題による風評被害もなく、日本の「新たな台所」として定着しつつある。

 一方で、水産物の取扱量の減少やブランドの確立という課題もある。

観光施設の開業遅れる

 狭く衛生面でも問題のあった築地市場に比べ、豊洲市場は約1・7倍の40㌶の広さで、最新鋭の閉鎖型施設を備えて衛生面が向上。水産物などの鮮度を保つ低温管理が可能となった。移転した仲卸業にも概(おおむ)ね好評だ。豊洲移転には強い反対もあったが、この基本方向が正しかったことが証明された。

 広くて近代的な施設であれば当然、取扱量も増えると見込んで、都は2023年度の水産物取引量の目標を築地時代を大幅に上回る約62万㌧とした。しかし、今年1~8月の取扱量は約22万㌧で、前年度に比べ若干減少している。

 この時期に取扱量が減ったのはサンマなど旬の魚の極端な不漁が原因というが、移転前から長期的に東京中央卸売市場での水産物の取り扱いは減少傾向にある。漁獲量や養殖量が減り、さらには市場を通さない取引も増えているためだ。

 一方、すし店などの飲食エリアやマグロの競りの見学通路は賑(にぎ)わっている。見学通路は2階の窓越しに見下ろすようになったが、安全な場所で見学できるため、団体での見学者は築地時代の2倍以上に増えている。

 小池百合子知事は、開場1年の記念式典で「世界に向けた食文化の新たな発信拠点となるように育てていきたい」と強調した。そういう点では、温浴・宿泊施設も入る観光拠点「千客万来施設」の開業が当初の予定より遅れ、来年の東京五輪・パラリンピックに間に合わずに23年春となったのは残念だ。

 東京五輪は、訪日客に日本の食文化の新しい拠点をアピールする絶好の機会である。施設完成は間に合わなくても、それに代わる企画を準備すべきだろう。豊洲ブランドを確立し定着させるためにも重要だ。

 土壌汚染問題があったとはいえ、小池知事が決定した2年延期のツケは大きく、財政面でも大きな重荷となっている。

 伊藤裕康・豊洲市場協会会長は「これだけの設備をどうやって活用し、仕事を広げていくか考えていかなくてはいけない」と語ったが、都は7月に「市場の活性化を考える会」を設置し、来年度末に市場全体のあり方についてまとめる方針だ。

 水産物取扱量を増やすのは、水産業全体の課題があって簡単ではない。資源の減少という根本的な問題もある。しかし、5700億円を投入して建設した施設をもっと有効に生かす方法を検討し、2年の遅れを挽回するためにも知恵と努力を投入すべきである。

親しみ持たれる市場に

 地元江東区からも要望が出ている一般客の魚の買い物については、仲卸業者や市場を管理する都が調整中という。豊洲ブランドの確立のために、市場に親しみを持ってもらうことも必要だ。安全確保策を講じた上で実現してほしい。