北朝鮮の入れ知恵が現実化する韓国
曺国法務長官任命強行を促す
最近、大韓民国で起こることを見ると虚脱感を超えて惨憺(さんたん)たる思いだ。歴史の時計の針を逆に回すようなことが平気で横行している。誰かが政府・与党の誤りを指摘でもすれば、積弊勢力の手下のように非難される。正義は失踪し、集団の知性は姿を消してしまった。
すでに提起された疑惑だけでも、曺国氏が法務長官に就任するのは難しかったのに、それを批判すれば「愚かな反改革保守だ」と罵倒された。さらにあきれることは人類歴史上最悪の反民主・世襲独裁体制の北朝鮮に追従する輩(やから)と平和を論じる類いだ。
不思議なことに、主要事件ごとに北が内政干渉するように入れ知恵をすると、韓国社会でそれがそのまま現実化するということが繰り返されている。
北朝鮮の統一戦線部が運営する「こだま」は曺国去就の決定が秒読みに入った9月8日夜「大混乱の迷路、曺国政局の出口」という論評で、「(重要なのは)一時身を置いた社会主義労働者同盟の利敵性でも、娘の論文代筆疑惑や奨学金特典疑惑の真実性でもない。家族私募ファンド投資財産増殖などではさらさらない。不正腐敗の真実性ではなく、司法改革の前途に関する問題であり、民主改革陣営の核心人物を守るかどうかという問題だ」として曺国任命を促した。
大統領は9日、国民の多数が不当だと判断を下したのに、曺国法務長官任命を強行し、与党は「権力機関改革のための苦悩に満ちた決断」だとそれを支持した。
朴槿恵大統領の弾劾が始まる前の2016年3月、既に労働新聞は「われわれは朴槿恵を弾劾する」という記事を載せたし、弾劾が完了した3日後の17年3月13日には、「素晴らしい、ろうそくデモ、民衆が主人となる新しい社会を作れ」と称賛した。韓米軍事訓練の縮小、韓日軍事情報包括保護協定(GSOMIA)廃棄など、安保上の懸案も北の言う通りなったことは同じことだ。
これら全部が偶然であろうか。北朝鮮の祖国平和統一委員会が運営する「ウリ民族同士」は17日、自由韓国党の黄教安代表の拘束と羅卿瑗院内代表の政界引退、そして同党解体を指令した。24日には労働新聞が曺国事態について、「政権簒奪(さんだつ)の野望が隠された不純な乱闘」という題名で再びとんでもない主張を行った。まず、曺国国政調査を拒否せよ、第二に、進歩勢力を総結集せよ、三番目、ろうそくデモを再び、などだ。
これに対して北朝鮮の咸興共産大教授だったキム・フングァンNK知識人連帯代表は、「前日に行われた曺国自宅押収捜索で北朝鮮に友好的な左派政権が崩れるかと思って急に指令を下したものと見える」と診断した。
政府と与党、政府系市民団体がどのように反応するのか見守る。
(趙貞鎭〈チョジョンジン〉論説委員兼統一研究委員、9月26日付)
※記事は本紙の編集方針とは別であり、韓国の論調として紹介するものです。
ポイント解説
「北指示・南実行」のからくり
韓国の左派と北朝鮮との関係が単なる「呼応」や「連携」なのか、それとも「指示・実行」なのか。北朝鮮が“予言”したことが韓国ですぐ実現する。セゲイルボの趙貞鎭論説委員は「これら全部が偶然だろうか」と疑問を呈する。
北朝鮮と韓国左派の連携は、まるで悪役レスラーが凶器攻撃しているのをレフリーだけが分からないふりをするプロレスのようなものだ。善玉が血まみれになっていくのはショーだからいいようなものの、これが体制の転覆などにつながる政治工作だった場合、のんびりとやじを飛ばしている場合ではない。
これまでも北朝鮮による政治工作が暴かれた事件はあった。解散命令を受けた統合進歩党の李石基議員(当時)が内乱陰謀罪で有罪判決を受け収監されているが、彼らが「従北派」や「自主派」などという緩い組織や人員ではなく、かつて朝鮮労働党の指揮下で地下政党として活動し、朝鮮人民軍偵察総局の指令が下れば蜂起する別働隊であることが明らかになっている以上、“悪役レスラーの反則”は明白だ。
いまさらの感もあるが、政権中枢に入り込んだ左派の正体と狙いを白日の下に晒(さら)して、左派政権の企みを国民に訴えるべきである。しかも「偶然だろうか」と読者に解釈を委ねるのではなく、明確な事実で追及すべきだが、「土着倭寇」批判を恐れる韓国メディアの限界がのぞく。
韓国の左右対決が先鋭化してきていることはうかがえる。
(岩崎 哲)