効果上げる対北朝鮮経済制裁

宮塚コリア研究所代表 宮塚 利雄

食糧事情の悪化鮮明に
一方で「ぜいたく品」輸入も

宮塚 利雄

宮塚コリア研究所代表 宮塚 利雄

 北朝鮮は7月25日と31日の朝に東部から日本海に向けてミサイルを発射した。このミサイル発射は8月の米韓合同軍事演習を前に文政権への圧力を高め、米韓同盟の分断を図るのが目的の武力示威と言われている。だが、国内事情はこのような武力示威とは裏腹に、決して果々(はかばか)しくない状況にある。

 国連食糧農業機関(FAO)は7月17日に、世界の食糧安全保障と栄養摂取に関する報告書を発表した。これによると北朝鮮の栄養不良人口の比率が2004~06年の35・4%から、16~18年は47・8%へと大幅に悪化した。世界全体では14・4%から10・7%に改善されているのに対し、北朝鮮の食糧事情が悪化していることが鮮明になった。16~18年の北朝鮮の栄養不良人口は推定1220万人とされ、各国の全人口に占める栄養不良人口比(推定)で、中央アフリカ(59・6%)、ジンバブエ(51・3%)、ハイチ(49・3%)に次ぎ4番目に高い国である。

密輸車の3割が日本車

 また、世界食糧計画(WFP)は5月に、北朝鮮の数百万人に飢餓状態が迫っていると発表している。まさかと思われるが、韓国銀行が7月26日に「18年の北朝鮮経済が2年連続のマイナス成長になった」と発表し、その中で「対北朝鮮制裁が17年8月から本格化し、昨年の猛暑で農作物の収穫が悪かったことが影響した」と説明した。北朝鮮は建国以来の「人民の食べる問題の解決」がいまだに実現できていないのである。ミサイル開発の資金を食糧購入に当てたら、という論理は通用しなくなっている。

 それどころか、このような食糧事情とは対照的に、アメリカのシンクタンク「C4ADS」は16日に、北朝鮮が15~17年に高級車など803台を輸入し、うち3割を超える256台が日本車だったとする報告書を発表した。北朝鮮に対しては国連安全保障理事会の制裁決議で「ぜいたく品」の輸出を禁じているが、報告書では約90カ国がぜいたく品の流入に関与していると指摘している。日本車の内訳はトヨタ自動車がレクサスなど211台、日産自動車43台、三菱自動車2台となっているが、これらはロシアを通じて北朝鮮に渡ったという。

 報告書では今年1月に金正恩委員長の利用が確認された、ドイツ製高級車「メルセデス・マイバッハS600」の防弾仕様車の密輸ルートを追跡したところ、昨年6月にオランダを出発し中国・大連や大阪、韓国・釜山を経由して同10月にロシア極東から北朝鮮に空輸されたと推定している。北朝鮮を旅行した日本人観光客の中にも、平壌でベンツやレクサスなどの高級車を見たという証言がある。

 北朝鮮は食糧支援など人道援助活動を世界に訴えているが、その一方では「ぜいたく品」の密輸も行っているのである。韓国の大韓貿易投資振興公社(KOTRA)が7月19日に発表した報告書によると、北朝鮮の18年の貿易額(韓国との交易省く)は約28億4000万㌦で前年に比べ48・8%減少し、2年連続のマイナスになったとのこと。特に輸出額は86・3%減の約2億4000万㌦にとどまった。これは石炭や鉄鉱石、水産物など北朝鮮の主力輸出品の禁輸を決めた17年の国連安全保障理事会の制裁が強い影響を及ぼしたためである。

米に「制裁解除」を懇願

 日本のある北朝鮮問題研究者の中には、北朝鮮への経済制裁は効果を上げない、としたり顔で言っていた人物もいた。しかし、金正恩委員長がトランプ米大統領に事あるごとに、執拗(しつよう)に「経済制裁の解除」を求めているのは、国連による経済制裁が北朝鮮経済の困窮に拍車を掛けていることを如実に物語っている。同じ説明になるが、米国の国連代表部などが6月11日に、北朝鮮が船舶間の洋上積み替え「瀬取り」で石油精製品を密輸入し、国連安全保障理事会の定める年間50万バレルの輸入上限量を超えたとする文書を安保理の制裁委員会に提出したが、北朝鮮が密輸や瀬取りを繰り返すのは国連制裁で国内経済が打撃を受けているからである(北朝鮮は8月に入っても何度もミサイルを発射している)。

(みやつか・としお)