深刻化する「ナクバの日」デモ

渥美 堅持東京国際大学名誉教授 渥美 堅持

パレスチナに世界が同情
関心集め資金獲得図るハマス

 まさか本当にはやるまいと思っていたことが現実に実行された。トランプ米大統領の選挙公約として登場したエルサレムへの米国大使館移転宣言は、その影響の大きさから実行されないであろうと思われていた。しかし期待に反して米国大使館のエルサレムへの移転がイスラエル建国70年の記念日を期して実行された。

 イスラエル政府はエルサレムにあるイスラエル外務省で大使館移転を祝う歓迎式典を開催、トランプ大統領のビデオメッセージを流し、娘のイバンカ大統領補佐官と夫であるクシュナー大統領上級顧問、ムニューシン米財務長官等が出席して移転式典に花を添えた。娘夫婦とネタニヤフ・イスラエル首相との関係の深さは広く知れ渡るところであるが、国務長官、国防長官等の米国政府高官は出席せず、トランプ、ネタニヤフ両家による親睦会のような式典としての印象を世界に与えた。

 この式典には多くの国が招待されたが、50カ国以上の国が欠席し世界の批判は表現された。

 一方、イスラエル建国の日はパレスチナにとって惨劇の日であり「ナクバの日、大破局の日」として忘れられない日であった。悲しみの日に米国が大使館をエルサレムに移転させた米国大統領の行動に対し、その非礼に抗議し「重大な歴史的不正義が再び起きた」としてトランプ大統領を激しく非難し、安保理開催を要求したのは当然の行為であった。

 パレスチナの民は「ナクバの日」を迎えて、これまで行ってきたイスラエルに対するデモをより拡大させていったが、米国大使館が現実にエルサレムに移転したことによりデモをより激化させ、イスラエルとの対立を拡大させた。その結果、多くの犠牲者を出す悲惨な局面がガザ地域周辺を中心に展開されることとなった。

 特にイスラエルがデモ隊に武器の使用をしたため、デモに参加したパレスチナ人の犠牲者は増大した。負傷した者たちの多くは足の膝から下の部分が狙撃され、パレスチナ人に大きな障害が残る形で攻撃が行われた。こうしてイスラエルに対する遺恨が長く印象付けられる結果をパレスチナ人世界に与えたのである。

 今回のデモで注目すべきことは、パレスチナ側はイスラエルに対するデモを行うについてまったく武器等を使用せず、せいぜい紐(ひも)を使った投石、凧(たこ)に松明(たいまつ)を付けてイスラエルに飛ばすという方法を用いてイスラエルへのデモを展開し、それに対しイスラエルは銃弾を使用したということである。

 もしこれがヨルダン川西岸地区であるならば理解できる。だが、その影響力が落ちたとはいえ、いまだ強い影響力を持つハマスおよび少数の武装集団の存在が指摘されるガザ地区で、彼らに指導されたパレスチナ人が、何らの防備なしにイスラエルとの壁に向けてデモを行ったという点である。そして無防備なデモ隊に対してイスラエル側が武器を使用して対応している点である。この点に関してイスラエルは大いに批判されるべきであるが、無防備なデモ隊を武装しているイスラエル兵の下に派遣したハマスの行動に問題は無かったかと言えば、大きな疑問がそこに生まれる。

 これまでのガザからのイスラエルに対する行動は、ミサイル攻撃を展開しイスラエルによるガザ空爆を促し、パレスチナの現状を世界に訴えるという形で行われてきた。それによって、世界の同情の中でイスラエル抑止とガザ地域の環境改善そしてハマスの存在価値を世界に印象付けるという思惑があった。これがハマスによる対イスラエル軍事作戦の目的であった。

 しかし今回、ガザ地区でハマス等に促されイスラエルにデモを仕掛けたパレスチナ人は、全くの無防備、非武装の形でイスラエル兵と対峙したのである。すなわちハマスの下でデモに参加したパレスチナ人は、大きな犠牲者を出すことが避けられない状況下でデモに参加したことになる。これによってパレスチナ人犠者が続出し、その結果、パレスチナ人に対する大きな同情が世界から寄せられることになる。

 もともとハマスによるガザからのイスラエル攻撃は、イスラエルの空爆を誘発させ、世界の関心をガザに集めて資金を集めることを画策したものであったといわれている。今回のガザ地区のデモ編成の背景にも、かつてハマスが画策した、世界の関心を集め、資金を獲得するという思惑が存在しているのでないのかという疑問は拭いきれない。

 それ故、国際社会がこの現状を早急に停止するための行動を起こさなければ、「ナクバの日」デモは、これ以上の深刻な状況をパレスチナ、イスラエル双方に与えることになる。今、パレスチナ側の犠牲者、負傷者の数は増えてやむことはない。今後デモは拡大し、凄惨な日々を止める術(すべ)が無いという深刻な状況の中にパレスチナが追い込まれれば、世界は「ナクバの日」を自ら味わうことになる。

(あつみ・けんじ)