2期目の黒田日銀の課題に「独立性の信念」を持ち出し批判した毎日
◆異論検討求める朝日
日銀総裁に黒田東彦氏が再任され、黒田日銀の2期目がスタートした。
欧米で金融正常化の「出口」戦略が進む中、2%の物価目標にはいまだ届かず、「異次元緩和」の副作用が目立ち始めてきた。また、緩やかながら拡大を続ける景気にも、“米中貿易戦争”の懸念など海外要因を背景に先行き警戒感が強まり変調の兆しを見せ始めている。こうした課題に2期目の黒田日銀はどう取り組むのか――。
黒田総裁が再任された9日前後に2期目の黒田日銀について社説で論評したのは、朝日、読売、毎日の3紙。日付順に見出しを挙げると、2日付朝日「『異論』含め議論尽くせ」、11日付読売「日銀緩和の行方をどう描くか」、12日付毎日「独立性の信念が試される」である。
朝日の言う「異論」云々というのは、日銀の政策委員会の現メンバーが正副総裁を含め全員が安倍政権の下で選ばれており、その主張には共通点が多く、議論の幅が狭まる恐れがあるとして、「だからこそ、異論や疑問点を周到に検討することが不可欠だ」というわけ。
冒頭に記した2期目の黒田日銀が抱える課題に対し、朝日は「今後5年の任期の間には、重大な判断を迫られる局面がくるはずだ。日銀への異論や批判についても議論を尽くし、物価と金融システムの安定に万全を期す必要がある」と説く。もっともな意見である。
◆読売は副作用を重視
読売の「日銀緩和の…」の方は、「異次元緩和には副作用も出始めている」の冒頭で始まったように、副作用に重きを置いた論調で、「長期間の量的緩和政策などを軟着陸にどう導くか」「新たな5年の任期は一段と重い課題に取り組むことになる」とした。
副作用すなわち長期にわたる大規模緩和の弊害とは、①銀行で貸出金利が低迷し収益が圧迫され、また新規融資が滞り金融緩和の効果をむしろ減じている②株式市場で日銀の上場投資信託(ETF)購入が株価をゆがめている③国債発行残高に占める日銀保有が4割に達し市場が硬直化している――などである。
黒田総裁は9日の再任記者会見でも、「物価目標の実現までにはなお距離がある」として現行の緩和政策を続ける考えを強調した。
読売は、黒田氏が物価目標の原則論に終始するのは、市場で政策変更の観測が広がれば金利急騰などを招きかねないとの警戒感もあろう、と指摘。「現時点では、黒田氏の政策の方向性は理解できる」としながらも、「2%目標に固執するばかりでなく、中期的には柔軟に見直す姿勢も必要なのではないか」「物価が目標水準に未達でも緩和の出口戦略に乗り出している米欧当局の政策は参考になる」とした。現状を踏まえた提案で、同感である。
◆2期目課題とは無関係
もう一つの毎日「独立性の信念…」だが、これは先の2紙が経済問題として扱っているのに比べ、かなり政治的である。「戦時立法として制定された旧日銀法」から現在の日銀法に変わって20年がたったが、「その…節目に、黒田東彦総裁が2期目に入った。改めて、法改正の精神はどこへ行ったかと問わずにはいられない」というのである。
法改正の精神とは、新日銀法が「自主性の尊重」という表現で盛り込んだ、「金融政策の政府からの独立」である。
1期目の異次元緩和は安倍政権の経済政策「アベノミクス」の三本の矢の1本目にとして「国家の政策の中枢に組み込まれた」。そして、2期目も辞令交付に当たり、安倍首相が三本の矢を「さらに強化していく必要がある」と述べたことに、来年秋の消費税増税を念頭に「異次元緩和の正常化にクギを刺すものだろう」として、それに対して日銀の「独立性の信念が試される」というわけである。要は、日銀に政策を要求する安倍批判と、いつまでアベノミクスの一つの道具を続けるのかという日銀批判である。
もっとも、この「独立性」の指摘は、2期目の課題とは直接関係はなく言い過ぎであろう。政府、日銀がそれぞれ当面の政策課題として認識した内容が「デフレ脱却」という点で一致しただけ、と見るのが適当と思えるからである。
2期目の黒田日銀、特にその使命やデフレ脱却観については、本紙17日付鈴木淑夫氏のビューポイント「日銀新執行部に期待すること」が大いに参考になる。
(床井明男)





