シリア攻撃を評価しながらもトランプ氏の政策に懸念抱く米英各紙
◆縮小する米の影響力
トランプ米政権は、シリア反政府勢力の拠点に対し化学兵器を使用したアサド政権に軍事攻撃を行った。化学兵器の研究・保管施設3カ所への限定的な攻撃への批判は少ないものの、アサド政権の残虐な攻撃が続く現状に変わりはなく、「シリア人にとっては、小さ過ぎ、遅過ぎた」(アラブ系ニュースサイト「ニュース・アラブ」)と米国のシリアでの影響力が縮小することによる情勢悪化へ懸念の声も上がっている。
攻撃に参加した英国の経済紙フィナンシャル・タイムズ(FT)は、「米国には介入の権利がある」と攻撃に理解を示す一方で、「継続的な解決」にはつながらないとその効果には否定的だ。
その根底には、トランプ大統領がシリア介入に及び腰で、シリア情勢に対する戦略が見えてこないことが一因としてある。
オバマ政権当時、米国は限定的ながら反政府勢力を支援していた。しかし、トランプ政権はアサド政権の存続には否定的であるものの、反政府勢力への支援は行わないなど、米国のシリア政策にちぐはぐが目立つ。
また、トランプ政権は昨年4月、アサド政権による化学兵器使用に対して空軍基地を攻撃したものの、アサド政権はその後も塩素ガスによる攻撃を繰り返した。1年後、再び強力な化学兵器を使用したことで、空爆の効果に疑問の声が上がった。
FTは、攻撃が米仏との協力で行われたこと、シリアに駐留するロシアとイランの報復を招かないよう慎重に標的が選ばれたことを評価、「アサド氏や、独裁者を支持する国々は、国際社会には戦争犯罪を阻止する用意があることを知る必要がある」と、軍事攻撃の効果に期待を表明した。
◆任務完遂まだまだ先
一方でFTは、「ミサイル攻撃は戦略とは無関係」と、長引く内戦に対する米政府の戦略の欠如に懸念を表明した。トランプ大統領が、シリア攻撃前に、シリアからの米軍撤収の意思を表明したことも、その懸念に拍車を掛けている。
また、シリアをめぐるトランプ氏のツイートにも反論した。トランプ氏が攻撃の成功を受けて「勝利」をたたえる投稿をしたことについて、「米大統領が歴史をよく学んでいれば、『ミッション・アカンプリッシュト(任務完遂)』とは言わなかっただろう。これは、ブッシュ大統領(子)がイラクに関して使用し、米国の信頼を著しく傷つけたのと同じ言葉だ」と、ブッシュ大統領のイラク戦争勝利宣言を引き合いに出しながら、トランプ氏の対応に苦言を呈した。
FTは、任務は「まだ完遂されていない」と、米国と同盟国のシリア駐留の継続を訴えている。ロシアとイランのシリアでの影響力が増すからだ。また、イスラエルと激しく対立するイラン系武装組織ヒズボラが武力を増強することになれば、イスラエルは動かざるを得なくなるだろう。イスラエル、レバノンをも巻き込む泥沼の事態も考えられる。
米紙ワシントン・ポストも同様に「シリア攻撃は正しいが、任務完遂はまだまだ先だ」とトランプ氏のシリア政策にくぎを刺す。
◆米軍撤退の弊害指摘
トランプ氏は「米国の血と資金を投入しても、中東に平和と安全をもたらすことはできない」と主張し、シリア駐留の2000人の米兵の撤収を訴えている。「米軍が撤収しても、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、カタール、エジプトなどの『関与が強まり』イランがシリアに居つくことを阻止する」という考えだが、ポスト紙は「幻想」だと一蹴した。
米軍はシリア北部ユーフラテス川東岸を事実上支配しているが、撤収すれば、「アサド政権とトルコが侵入し、…イランがシリアを横切る地上の回廊を手にする」と米軍撤収の弊害を指摘した。
米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)も「一度の空爆でシリアの基礎的条件を変えることはできない」と米国のシリア駐留の継続を訴える。WSJは、オバマ前政権時に、ロシア、イラン、中国の中東での勢力拡大を許したとした上で、「トランプ氏は、シリアに限らず、米軍を撤収させるか、ロシアなどの勢力拡大を阻止するための戦略を立てるかを決めなければならない」と訴えている。
(本田隆文)





