侮れぬ中国の「大言壮語」
高い目標掲げ国民鼓舞
「高邁な理念」不在の衆院選
今月は我が国の衆議院選挙が行われ、安倍政権の信任を問うこととなった。選挙結果は小池新党の不振、自民・公明の堅調さが際立つ結果となった。他方、隣国の中国では5年に1度の共産党大会が開かれ、習近平主席体制の一層の強化が確認されると同時に、次期政権の行方を推察させる人事が明らかになった。関連して若干の所見を披露したい。
中国共産党の第19回党大会は18日に開幕し、習近平総書記の冒頭演説が3時間半にわたって行われ、中国の着実な発展、特に習主席の5年間の足跡を全方位的・創造的であると評価した。そして今後5年間社会の安定的発展を持続し、2035年までに「都市・農村格差を大幅に縮小するなど豊かさを底上げ」し、50年までに「総合的国力と国際的影響力をもって世界の先頭に立つ」とする壮大な目標を開陳した。
これに対するマスコミの反応は「大言壮語」は中国の常とする見方が底流にあるのか冷めた見方が多く、「習近平の毛沢東、鄧小平に次ぐ神格化狙い」とか、「都市農村間格差問題を浮き彫りにした」といった論調である。刊行物、インターネットも中国の悪口を言えば売れる的な傾向を受け継いでいる。
しかし、筆者はちょっと異なる見方をしている。それは中国が一党独裁の特殊な政治体制の下、冷静な分析の基に意識的に高い目標を掲げ、国民の士気を鼓舞し、努力を結集する方式を選択している結果であろうと見ている。「高い目標」「夢の社会の実現」と言った表現は、概して大衆には心地よく響くものであるし、若干の忍耐を強いるには格好の手段で、独裁・全体主義としては、都合の良い方策なのである。また鄧小平によりもたらされた改革開放路線からわずかに40年、激変した中国の発展を見るとき、40年後の目標としては決して誇張した目標とは言えないのではないかと考えている。
先日、NHKの報道で、中国産業界の若手が「今までは技術パクリの時代であったが、これからは創新の時代である」と発言していたのが印象的であった。特に典型的な例は、先進各国産業の骨幹である自動車産業について、中国が生産台数世界一となった電気自動車への切り替えを強力に進めており、ガソリン車で優位に立つ我が国は苦境に立つことが目に見えている。高速鉄道技術、ドローン技術、そして得意の繊維やIT技術等「パクリ」の時代を通り過ぎていることを認識しなければならない。
筆者専門の軍事面においても、中国は太平洋を二分し、東を米国、西を中国が威力圏とすることを公言し、世界を唖然(あぜん)とさせたことは記憶に新しい。さらに習近平訪米時には、同趣旨の発言を行っている。そしてその後、空母、原潜、ミサイル巡洋艦等の異常な軍拡を推進中であり、南シナ海諸群島の実効支配・要塞化、艦隊の外洋進出等確実に実績を重ねつつある。細部にわたっては、空母技術の未熟さ、搭載航空機の不安定さ等難航している場面も多々あるが、失敗しても、迂回(うかい)しても目標に進んでいこうとする姿勢は大いに注目していく必要がある。言うなればこれが中国の行き方、基本姿勢であることを認識すべきなのであろう。
我が国では、衆議院選挙が行われた。都知事選の再来を狙って新党設立という政治屋らしい動きの中、自民・公明の現政権が大勝し、懸案の改憲是認勢力が3分の2を大きく超える体制となった。実に結構なことと考えている。思えば前東京都知事の異常な政治資金乱用・公私混同に起因する辞職の間を突き、地滑り的勝利を得た小池氏が新党ブームを狙って希望の党を立ち上げ、民進党と合流、一気に政権交代を目指したものの、選挙戦に入って一気に減速、惨敗に終わった。小池知事の1年の足跡は決して建設的ではない。都が長年積み上げてきた業務にクレームをつけ、オリンピック関連施設・豊洲移転を引き延ばし、多大な財政的負担を背負った結果となっており、その辺が国民の意見となって表れたものではないかと考えている。
選挙を通じて強く感じるのは、各党の理念・主張のスケールの小ささである。ほとんどの議論が、党利党略、相互に相手の悪口を言い合う醜い様相を呈し、国民に夢と希望を与える高邁な理念にはお目に掛かれなかったのは誠に残念である。世界は大きく変化しつつある。中国をはじめとする高度成長が見込まれる新興諸国の台頭、通商問題、エネルギー問題、テロ・核拡散防止条約(NPT)問題等時々刻々変化する。このような中で国際的に我が国はどのように成長し、かつ貢献していくかといった高い目標を掲げて政党の信を問う選挙をしてほしいものである。
今回の選挙で筆者が最も評価するのは、新党発足の慌ただしい中、小池代表の民進党左派の「排除」であった。古くは社会党右派の流れをくむ民進党左派に見切りをつけたことは、旗幟(きし)を鮮明にした観点から勇断であったと考えている。これにより今後の政界の一層の整理が進むことを期待したい。
来月にはトランプ大統領が訪日する。同盟の深化、北朝鮮対応等重要課題が主要な項目となろうが、我が国の国際社会での立ち居振る舞い、世界の明るい未来への貢献等質の高い目標を明確にし、会談に臨んでほしいと考えている。
(すぎやま・しげる)