財政健全化と成長で「責任ある経済政策」主張も難しさ語らぬ各紙

◆二兎を同時に求める

 衆院選も22日の投開票まであとわずか。各党とも自党政策のアピールや他党批判に舌戦を展開しているが、新聞は、経済問題では約5年間の安倍政権の経済政策「アベノミクス」の是非を中心に「責任ある」政策論議を訴える社説を掲載した。ただ、特に産経や日経のそれは相変わらず、財政健全化と経済成長の両立という二兎を同時に求める内容で、「言うは易く行うは難し」の感を強く抱かせる。

 今回評した社説の見出しは次の通りである。11日付日経「次世代に責任ある経済政策論議を」、13日付東京「経済政策/思いつきノミクスでは」、14日付朝日「アベノミクス論争/『つぎはぎ』の限界直視を」、16日付産経「衆院選と経済政策/財政健全化の道筋見えぬ/回復実感得られる成長策語れ」――。

 産経の一番の懸念は見出しの通り、与野党通じての財政健全化への取り組みのようで、特に自公の公約では、「消費税の使途を変更すれば借金減額の財源は削られる。教育無償化の財源は事実上、赤字国債を発行して賄うことと同じである」と指摘する。

 安倍政権は20年度に基礎的財政収支を黒字化する目標を掲げてきたが、それが「達成できなくなるのは自明なのに、自民党公約には新たな目標年次がない」と批判し、「歳出入改革をどう深堀するかも含め、財政再建の具体的な道筋を示すべきだ」と注文を付ける。増税凍結を唱える側には、「当然、その代替財源を明確にする責任がある」という具合である。

◆緊縮財政策で税収減

 また、産経は「0%台後半にとどまる潜在成長率を高めるため、規制緩和や制度改革などに腰を据えて取り組むことで、ここから脱したい」と主張する。特に日本は、長期デフレで「失われた20年」を経験し、経済が成長しても勢いが見られない傾向が強く、企業も家計も、経済の先行きを慎重に見る縮み思考が根強く残る、からというのがその理由である。

 財政健全化も大事、成長も大事でそれぞれ間違いではないが、それらが矛盾せず、同時並行的に達成できるかどうかという点が問題なわけであるのに、その点を同紙は言わない。

 さらに付け加えるなら、バブル崩壊後のいわゆる「失われた20年」を長引かせたのは、バブル崩壊後、回復傾向をたどり始めた時期に、「財政健全化のために」と称して、産経を含め各紙が主張し実施された1997年度の橋本政権による消費税増税と緊縮財政策である。

 この実施後のマイナス成長を含む経済の長期低迷が、税収の落ち込み、国債の大量発行という形で財政悪化に至ったことは、小欄でもたびたび指摘してきたことである。

 今回、産経は増税については、次のように記す。「増税は一時的に景気を冷やす要因となる。それでも安定的な社会保障財源を確保するのに消費税増税が必要なことは論をまたない。考慮すべきは、そのタイミングであり、いつまでも先延ばしすることも許されない」――。

 ここには、同紙が主張した97年度と2014年度の増税による想定以上の経済への悪影響についての反省の弁はない。

◆強調すべき成長戦略

 日経社説も趣旨は産経とほぼ同様で、「増税見送りは無責任」(小見出し)とまで言うが、消費税増税の経済への悪影響をよくよく分析せずして、そこまで言えるかどうか。強調すべきは、同紙も指摘するように、成長戦略と「所得や資産を持つ高齢者への給付削減など」少子・高齢化の進展で膨らむ年金・医療・介護などの社会保障費の抑制策であろう。

 朝日の、「つぎはぎ」…、だが、アベノミクスは文字通り、安倍政権の経済政策のことゆえ、経済状況により中身や手法が変わるのは当然で、デフレ脱却や経済の好循環を目指す目的は変わっていない。

 同紙は、世界的に技術革新とグローバル化が進み、国内では未曽有の高齢化と人口減少に直面しているとして、「経済成長による『パイ』の拡大とともに、その分配の視点が一段と大事になってくる」と強調する。確かに分配は大事だが、成長あっての分配である。成長の達成度合いによって、分配の度合いも変ってこよう。東京は、自公、希望の批判に終始している。

(床井明男)