「与党圧勝」を予測する各紙報道による「アナウンス効果」に油断は禁物

◆度々外れる事前予測

 先週、各紙が衆院選の序盤情勢調査を報じた。「自公両党で300議席をうかがう」(読売12日付)、「自民単独過半数を大きく上回る」(朝日12日付)などと、いずれも与党勝利を予測している。

 朝日の12、13日調査でもこの傾向は変わらず、「自公、300議席うかがう 希望、東京で軒並み苦戦」(14日付)としている。これら調査を見た限り、自民が完敗した7月の都議選とは雲行きがガラリと変わったようだ。

 今回の総選挙は、公示前は「小池劇場」で大いに盛り上がったが、幕が開くと、肝心の主役が登場せず、政権交代は掛け声ばかりで観客は興ざめ。予測報道からそんな図が浮かんでくる。

 各紙の選挙報道も地味になった。「お祭り」記事が消え、早くも選挙後に焦点を当て、民進党の再結集があるかといった観測気球まで上げている。まるで選挙は終わってしまったかのようだ。

 だが、与党支持者は油断は禁物だ。過去に事前予測がひっくり返った例がたびたびあるからだ。外れたほうが多かったといっても過言でない。例えば1998年の参院選では各紙そろって「自民大勝」と予測したが、共産が大躍進し自民は惨敗。当時の橋本龍太郎首相が退陣に追い込まれた。

 2000年の衆院選では「自民安定多数」と予測。だが、過半数割れで、自公に保守党が加わった自公保連立政権でしのいだ。小池百合子都知事はその保守党の一員だった。03年の衆院選でも「自民、単独過半数」が、過半数を割り込んでいる。

 小泉純一郎首相の「郵政解散」となった05年の衆院選では「自民、単独過半数」が、単独過半数を優に超える300議席超えの圧勝(勝ったので批判は出なかったが)。07年の参院選では「与党、過半数困難に」が、困難を通り越して大敗、第一次安倍内閣が終わった。

◆与党の足を引っ張る

 こうしたことから予測報道の「アナウンス効果」が問題視された。アナウンス効果とは、予測報道を受け有権者の投票行動が変化することを言う。「寄らば大樹型」(勝ち馬に乗る)と「判官びいき型」(劣勢側を助ける)があり、いずれも選挙結果を左右する。海外では選挙期間中に事前予測報道を禁止する国もあるほどだ。

 各紙はその後、調査を綿密にし、有権者も“誤報”で学習して予測に惑わされなくなり、大勢は外れにくくなった。それでも「圧勝」とされると、緩みが生じるのは人情で、大なり小なり投票行動に影響を与えてきた。

 前回(14年)の総選挙がまさにそうだった。各紙はそろって「与党 3分の2超す勢い」と与党圧勝を予測し、結果もそうなった。だが、共同通信は世論操作としか思えないような予測報道で与党の足を引っ張った。

 自民単独の予想獲得議席を3分の2(当時、317議席)を上回る320議席という衝撃的な数字をはじき出したのだ。この共同の配信を受けた地方紙が一斉に大きく報じた(同年12月4日付)。これで自民支持者は安堵して投票に行かず、一方で自民単独で3分の2は勝たせすぎだと考えて他党に投じた有権者も出た。

 実際の自民獲得議席は291で、共同が予測した下限からも大きく下回った。これは何を意味するのか。共同の調査が信頼性に欠ける単純な予測外れなのか、それともアナウンス効果を狙った恣意的なものだったのか。後者ならそれこそフェイクニュース(虚偽報道)、選挙妨害に等しい謀略報道だったことになる。

◆共同予測に前科あり

 今回、毎日12日付が共同の予測獲得議席を報じている。「自公300超 うかがう」とし、こう予測する。

 自民289(プラス・マイナス16)▽希望60(プラス12・マイナス13)▽公明30(プラス5・マイナス4)▽共産14(プラス5・マイナス4)▽立憲民主33(プラス9・マイナス8)▽維新17(プラス6・マイナス7)▽社民2(マイナス1)▽無所属20(プラス5・マイナス6)
 ちなみに3分の2は310議席。共同の予測通りなら改憲派がそれを超えるが、共同には“ほめ殺し”の前科がある。「与党圧勝」の予測報道のアナウンス効果が吉と出るか、凶と出るか。惑わされずに1票を投じたい。

(増 記代司)