新「民共共闘」、 立憲の安保政策の足かせに
公示日が迫る今月2日に立憲民主を立ち上げた枝野幸男代表は真っ先に共産の選挙協力を取り付けた。昨夏の参院選と同様に“市民”を媒介にして憲法9条の改正反対、立憲主義に反する安保法制などの白紙撤回、原発ゼロの実現(再稼働は認めず)などの政策推進を約束し、社民を含む3党が候補者を一本化するというものだ。
だが、その“市民”とは「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」という特定の政治目的を持つ民間団体にすぎず、共産とも連携して動いている。3日午後、同連合代表らが国会に枝野氏を訪ね、3党の選挙協力と7項目の基本政策を要望し、枝野氏がこれを受け入れる形を取った後、夕方、有楽町駅前で行われた枝野代表初の街頭演説から積極支援。7日に3党と正式合意した後は、8日、JR新橋駅前での枝野氏ら3党首そろい踏み、9日、JR渋谷駅前での3党首脳による街頭宣伝を“主催”し、結党直後の立憲民主ブームを全面的に後押しした。
共産も3日、枝野氏の選挙区(埼玉5区)の候補者を取り下げた後、全国的に候補一本化を進め、60人以上の候補者を取り下げ。支援競合の連合に向け政策協定も交わさず、党推薦もしない気配りも見せた。
小選挙区での“民共共闘”は、選挙戦では圧倒的に立憲民主に有利だ。各選挙区で2万~3万の共産票のほとんどが立憲民主に流れる上に、圧倒的な組織力を持つ共産が陰に陽に選挙運動を支えてくれる。逆に立憲民主の支持はかなり幅広いため共産に向かう票は限定的となる。共産は、候補取り下げによって供託金を節約(今回は約2億円)し他の運動に回せるが、立憲民主にいわゆるリベラル票が集まれば比例区や候補者を取り下げなかった小選挙区で苦戦するリスクもある。
これだけの“サービス”を受けた立憲民主は今後、“借り”がある共産や“市民”の制約を受けることになる。枝野氏は公示前の各種党首討論で、今回の選挙では政権を目指さない、共産との連立は「全く考えていない」と述べ、新「民共共闘」の衝撃を緩和しようとしたが、共産の支援を受けた衆院議員だらけの党になることが何を意味するのかは明らかだ。民進の前原誠司代表の苦悩はそこにあったのに、枝野氏は1人でも仲間を増やすための現実的な選択としてその道を選んだ。
最大の懸念は、中国の軍事増強と海洋進出や北朝鮮の核・ミサイル開発など緊迫する安保情勢の中、何よりも米国との緊密な協力関係が必要な時に、安保法制の白紙撤回を叫び、公約に普天間飛行場の辺野古移設を「ゼロベースで見直す」と掲げた点だ。いずれも米国との再調整を要するため、日米関係に鳩山由紀夫民主党政権以上の打撃を与えかねない無責任な公約だ。また、「安保法制を前提とした憲法9条の改悪に反対」と言い切ったことで、国の将来のビジョンをめぐる本格的な憲法論争にも参加できなくなる。
「共闘」の代償はとてつもなく大きい。
(政治部・武田滋樹)