衆院選公示、政権選択から安倍政権5年の通信簿付けに性格が変わる
◆希望の失速が顕わに
10日に公示され、22日に投開票される第48回衆院選が始まった。衆院の総定数が前回より10減の戦後最少465(小選挙区選289、比例選176)の議席獲得に、12日間の短期決戦である。
各紙は休刊日で新聞の出ない10日をはさむ9、11の両日に、衆院選をテーマに社説(主張)を掲載した。選挙戦は形の上では自民、公明の与党に対し、民進党の保守系などが加わった新党の希望の党と日本維新の会の保守中道系野党、民進党左派が立ち上げた立憲民主、共産、社民の左派系野党と3極が争う構図となった。だが事実上は「衆院選の最大の焦点は、自民、希望両党の対決」(読売9日付)とされたが、これも希望の党の小池百合子代表が議員定数の過半数の候補を擁立したのに首相指名の候補を明らかにしないなどの不透明な対応で失速が顕(あら)わになり、両党対決が基本から崩れた。
公示後の今は「選挙の性格が、政権選択から安倍政権の信任に変わってきた」(読売11日付)結果、各紙の見出しも「安倍政権の『信任』が問われる」(読売11日付)、「安倍政権への審判」(朝日・同)、「最大の争点『安倍政治』」(毎日・同)、「安倍政権5年へ審判を下す衆院選」(日経9日付)となったわけである。
◆立ち位置を示す社説
いわば、安倍政権5年についての通信簿を付けるのだが、社説から読める評価は新聞の立ち位置を正直に示したものとなった。
野党などが批判する安倍政権の国会運営のやや強引なところを認めた上で日経(9日付)は「多数を握った与党が公約したことを推進するのはある意味で当たり前」のことで、「何でも反対だった社会党が消滅したことを考えれば、抵抗型の政党が長続きするとは思えない」とズバリ説いた。議会制民主主義のイロハを確認する一方で、森友、加計疑惑などへのさらに丁寧な説明を促す注文も付け、有権者に冷静な判断を求めた。
日経は11日付でも、経済紙の本領を発揮してアベノミクス5年間の景気についてデータを基に概(おおむ)ね肯定的に評価する一方で、消費税増税分の使途変更を説明する与党案に財政規律に緩みがみられることなどを批判した。妥当な主張である。
産経は極度に緊張する北朝鮮情勢に直面して「戦後日本の民主主義が試される選挙」(9日付)だとした上で、立憲民主党や共産党が「集団的自衛権の限定行使を認めた安全保障関連法は違憲だとして廃止を求め」る考えは「北朝鮮を利し、核・ミサイル戦力の完成を加速しかねない」と批判。「『戦後平和主義』の流れを色濃く持つ左派系勢力は、国民の生命や平和を危うくしようとしていることに気付くべきだ」とバッサリ切った。また首相指名の候補も決めないまま選挙入りした希望の党の姿勢が戦いの軸を無くし「この党の信頼性を乏しいものにしている」(11日付)と批判したのも同感できる。
また9日付で希望の党が安保関連法を容認する立場を明確にしたことを「今後の安保論議をより建設的なものにする」と評価した読売(11日付)が、自社の世論調査から重視したい政策で、外交・安全保障が景気や社会保障を上回ったことを異例のことと注目。国民の関心が高い「日本の安全確保へ、各党は、より建設的な論議を深める」よう求めたのも興味深い。
◆「数の力」批判の朝日
これらとは真逆の立ち位置にあるのが、〈安倍政権つぶし〉が社の方針だと伝えられる朝日だが、期待した民進、共産、社民などの野党連合による保革対決が民進党の瓦解(がかい)で泡と消えた。それでも朝日は「民意こそ、政治を動かす」(11日付)とタイトルを掲げて「衆院選の最大の争点は、約5年の『安倍1強政治』への審判」で、「それをさらに4年続けるかどうか」確認したいと迫る。
安倍政権のこの5年を「圧倒的な数の力で特定秘密保護法、安保法、『共謀罪』法など国論を二分する法律を次々と成立」させ、モリ・カケ疑惑が論議された「ことし前半の通常国会では、数の力を振り回す政権の体質がむき出しになった」と批判。自民党の小選挙区の得票総数が「05年の『郵政選挙』以降、減り続けてい」ても、安倍首相は国政選挙4連勝中なのは「有権者の選挙への関心の低さが1強を支えている」のだと主張するのである。
(堀本和博)