基礎力・教養力としての国語力の充実を訴える東洋経済の特集

◆問題の漢字を読めず

 近年、日本語の乱れや国語力の低下を指摘する声がある。札幌のある塾の講師がつぶやいた。「数学の問題を解くにしても、問題の漢字が読めない。文章題では文章を数式に直す読解力がない。数学以前に国語力の問題だ」と半ば突き放すように言い放った。その塾に通う中学生の保護者がこう質問する。「先生、国語のテストで点数を上げるにはどうしたらいいのですか」と。確かに、国語はある意味で基礎の中の基礎なのだが、学力を上げるとなると意外に難しい。

 かつて江戸時代、寺小屋では“読み書きそろばん”を教えた。読むこと、書くこと、計算の仕方さえ覚えておけば、何とか世の中を渡っていけるというのである。一方、武士の子が学ぶ藩校では四書五経を中心とした儒学教育が施されていた。ともあれ、“読むこと”、“書くこと”は、現在では「国語」の範疇(はんちゅう)に入るであろうが、グローバル化し、高度情報化社会で国語力は低下していると指摘される中で、それらの能力を引き上げるには、かなりのパワーとテクニックを必要とすることは間違いない。

 東洋経済(10月7日号)はそんな「国語力」に焦点を当てた。「学び直し 国語力」と題し、ビジネスマンにとって大事な「議論する。交渉する。指示する。人とビジネスを動かす」のは「言葉だ」と結論付ける。もう一度、己の国語力を知り、学び直そうというのが特集の狙いである。

◆国語学び論理力鍛錬

 一方、ダイヤモンド(同号)も「これなら続けられる!独学力」をテーマにビジネスマンにとって身に付けたい効果的な「独学法」を紹介する。若い頃にもっと本を読んで勉強しておけばよかったと後悔するビジネスマンも少なくないが、思い立ったが吉日。その日から学び始めるべきだと訴える。

 その中でビジネスマンが持つべき教養として学んでおかなければならない科目に挙げたのが、宗教と哲学、数学、英語、世界史、理科、そして国語(論理力)の六つ。とりわけ、ビジネスマンにとって必要な科目が国語だという。「ビジネスの現場では、人に物事を説明したり、交渉したり、文章を書いたりする。それら全てのビジネススキルの土台となるのが論理力であり、国語(現代文)を学ぶことによって鍛えられるのだ」と説明する。

 さらに、「論理力は頭の善しあしではない。トレーニングをすれば必ず身に付く」とし、そのためには、「例えば、新聞の社説を読んで、その内容を1分で人に説明できるようにする」などの練習がいいという。もっとも、ダイヤモンドの場合は独学力に焦点が当てられ、国語以外の世界史や数学など教養を深める事例が多く掲載されているため、「国語力(論理力)のスキルアップをどうするか」という点では物足りなさは否めない。

◆多様な処方箋を紹介

 それに対して、東洋経済の特集は、表題のごとく文章の書き方、話し方についてのさまざまな処方箋が並ぶ。まず、パート1の基礎編では文章上達術やプレゼン話術といったノウハウを紹介、パート2の実践編ではソフトバンクの孫正義氏のスピーチや橋下徹氏の話術などを取り上げ、実際の交渉力や説得力を分析していく。論理力を深めたいビジネスマンには有益だろう。この中で、論理力の基本となる国語力を身に付け、論理力を高める文章を作る際の留意すべき点として、①根拠と結論を明確にする②伝えるべき相手の知識・常識や文化的背景をイメージしておく③文章の構造や文を作る上での要素をしっかりと把握しておく④しっかりと推敲(すいこう)する―などを挙げる。

 最近はスマホやインターネット交流サイト(SNS)の普及によって他とのコミュニケーションが瞬時に行われるようになった。限られた字数枠の中で、言葉を短縮してやり取りする。例えば、SNS内では「りょ(了解)」「イミフ(意味不明)」「とりまあ(とりあえずまあ)」「ポチる(購入ボタンを押して買う)」といった若者による新語が横行しているという。こうした造語はいつの時代にもあったが、問題は国語の基礎力がしっかりと身に付いているかということ。国語力がなければ、世界史も数学、理科といった基礎科目を読み解くことができない。ましてや教養など身に付くはずもない。そういう観点から現代人が己の国語力の程度を知り、学び直すことは極めて意義深いことと言える。

(湯朝 肇)