6度目の物価目標先送りに日銀の信頼損ねると批判強める朝日、毎日

◆現実受け止める読売

 日銀は物価上昇2%の目標達成時期を、これまでの「2018年度頃」から「19年度頃」に1年先送りした。目標達成の先送りは、これで6度目である。

 今回の先送りについて、社説で論評を掲載したのは、読売、日経、朝日、毎日の4紙。その見出しを並べると、次の通りである。読売(21日付)「物価目標先送り/焦らずに脱デフレを完遂せよ」、日経「物価2%目標、好循環伴う実現目指せ」、朝日(22日付)「日銀と物価/信頼失う安易な見通し」、毎日「日銀が6度目の目標先送り/終わりなき暴走が心配だ」――。

 見出しが示す通り、奇(く)しくも、保守系紙とリベラル系紙で論調が見事に分かれた。保守系2紙が、現実を受け止め、目標に向かってさらなる努力を求めたのに対し、リベラル系2紙は、政策の変更ないしは手法の改善を求めた。

 現実を受け止めた保守系紙の読売だが、その判断には「デフレ脱却に近道はない。政府・日銀が粘り強く政策を遂行していくしかあるまい」「物価回復の遅れによる先送りは残念だ」と苦渋が滲(にじ)む。

 ただ、それでも、「企業や家計を覆うデフレ心理は根強いが、物価は緩やかながら上向いている」として、「先行きを過度に悲観することはなかろう」というスタンス。

 昨年はマイナス圏だった消費者物価指数の上昇率が、今年1月にプラス0・1%に転じ、5月は0・4%まで回復しているからで、「今こそ焦らず、腰を据えて金融緩和に取り組むことが大切」というわけである。

◆緩和長期化への懸念

 日経もほぼ同様で、収益が好調な企業が賃金を引き上げ、それが個人消費の拡大につながり、物価も上がるという好循環の実現に政府・日銀は粘り強く取り組む必要があると強調する。

 確かに一理あるのだが、「6度目の先送り」が示す現実は、そうした狙いと努力がこれまで、何回となく実を結ぶに至らなかったという事実であり、今回も同様の結果になるのではないかという疑念を払拭できない確実性の弱さである。

 それとともに、気になるのが、本来、一時的だったはずの超金融緩和措置が長期化することによる弊害である。読売も一部指摘しているが、緩和措置の継続で、日銀の保有国債は発行残高の約4割に達し、日銀や内外の動きに国債市場が過敏になり金利が乱高下しやすくなっている。

 朝日は「先送りが続けば、緩和策を終える出口で日銀が被るコストも膨らむ」として「それだけに、安易な見通しが続くのは見過ごせない」と強調。毎日はさらに、「日銀の問題は、副作用の強い劇薬のような政策を、物価上昇率の2%超えが持続するまで続けると宣言していることだ」と強く批判する。

 日銀は国債ばかりでなく、株式を組み込んだ投資信託も購入しており、「市場での(日銀の)存在感が増すほど、方向転換の時が来ても、悪影響を恐れて動けなくなる」(毎日)というわけである。

 毎日社説見出しの「終わりなき暴走…」は、今回の金融政策決定会合を最後に、これまでマイナス金利政策や積極的緩和路線に異議を唱えてきた2人の政策委員が任期満了で交代することで、「ますます緩和一辺倒になりはしないか」という懸念からである。表現に誇張が過ぎるきらいがないではないが、一理ある。

 さらに、弊害を挙げれば、論評各紙にはなかったが、長低金利による、金利正常化だったら得られるはずの利子所得の喪失(年間数十兆円)による個人消費への悪影響である。

◆弊害の指摘ない日経

 こうした超金融緩和政策の長期化による弊害について、日経には一切指摘がなかった。あるのは、前述の好循環の実現に向けた政府・日銀の粘り強い取り組みと、それが必要な背景と理由だけであり、経済紙としては物足りなさが残る。

 現実的には、急激な政策変更はリベラル系紙が指摘するようにリスクやコストなど難しさを伴うため、デフレ脱却に向け、保守系紙が主張する努力を続けながら、微調整を図る他はないであろう。

 今回の各紙社説でもそうだが、各紙が支持し主張した消費税増税がなかったらどうだったのかの分析がない。各紙の見解を聞きたい。

(床井明男)