トランプ政権のロシアゲート
内政で挽回図る大統領
対外強硬策に出る可能性も
トランプ米政権の「ロシア疑惑」が、いつの間にか「ロシアゲート」という言葉に代わった。
昨年の米大統領選中のトランプ候補の親プーチン的な発言、選挙関連のロシアのサイバー攻撃疑惑など、白熱した選挙戦に異質の材料を提供した。
ヒラリー候補の多額の企業献金の獲得に対し、トランプ候補個人の財力による選挙活動は肯定的に受け止める人も見られた。
トランプ氏が不動産業で財を成した重要な顧客はロシアであった。2008年、トランプ氏の長男ドナルド・トランプ・ジュニアは「多くの事業でロシアからの投資の割合が突出して多い」と語っている(『ニューズウィーク』5月30日号)。
ソ連崩壊による国営企業の民営化で巨額の富を手にした新興財閥・政商(オリガルヒ)が、海外投資先の一つとして米国の不動産に目を付けた。トランプ物件は人気があり、米国法人をつくり、正体を隠して投資する政商も多くいた。闇経済で稼いだ資金の洗浄や将来を見越した国外逃避にも利用できるからである。ロシア人の不動産購入が、転売などを経てトランプ陣営の選挙資金や利権・闇交渉に使われた可能性が浮上してきている。
米大統領選において、なぜトランプ陣営がロシアと異常な関係を持とうとしたのか?
選挙戦中からのトランプ陣営のロシアとの接触が、もしロシアの選挙介入、資金提供、利権交渉などにつながるものとすれば許されるものではない。
大統領選の最中、民主党ヒラリー候補のメールや民主党全国委員会のメールをウィキリークスが公開したことは、当時大々的に報じられた。最近では6月21日、米国21州の選挙システムがロシアのサイバー攻撃の標的になった、と上院情報特別委員会公聴会で政府高官が証言している(別情報では39州)。
プーチン露大統領は、ロシアのハッカー攻撃を全面否定している。ただ、ロシアの愛国的ハッカーがロシア政府の仕業に見せ掛けた可能性はある(『産経新聞』6月6日)と語っており、暗にロシア側の介入を認めてはいる。
セルゲイ・キスリャク駐米ロシア大使は、トランプ氏が共和党の大統領候補になる前の昨年4月、初めて外交政策に関してワシントンで演説した際、特別ゲストとして招かれた。当時すでにトランプ側近にロシアとの人脈があったことがうかがえる。実際にこの直後の昨年6月、トランプ・ジュニア氏は、ロシア人弁護士を仲介され会談した、と今月11日に自ら公表している。
トランプ政権発足とともに安全保障担当補佐官になるマイケル・フリン氏は、昨年末、民間人でありながら駐米ロシア大使と接触、許可なく対露経済制裁措置緩和などについて協議したとして、在任24日間で辞職に追い込まれた。
最近では、大統領の娘婿のジャレッド・クシュナー大統領上級顧問もホワイトハウス入りの「身体検査」申告書に未記載が露顕、ロシアとの深い関係が噂(うわさ)されている。
昨年11月の大統領選挙投票日前に、ロシア大使とクシュナー、フリンの両氏は主にテロとの戦いや2国間関係の改善について話し合った。選挙後の12月に米国務省や情報機関が関与しない秘密の通信回線を設置する案についても協議した、と6人もの関係筋が明かしている。トランプ大統領が、人払いをして、連邦捜査局(FBI)長官にフリンはよいやつなので、彼の捜査を打ち切ってほしいと話したことは、フリン氏とトランプ氏・同陣営絡みの公にしたくないことを封じるためと推測されても仕方ない。
このほか、ポール・マナフォート選対委員長(選挙戦中に辞任)、最初の閣僚に任命されたジェフ・セッションズ司法長官、露天然ガス会社元顧問のカーター・ページ氏、ロシアと不動産取引のある大統領知人のロジャー・ストーン氏などが捜査対象に上っている。
ただロシアから「友好勲章」を授与されている、米石油大手エクソンモービル最高経営責任者(CEO)だったレックス・ティラーソン国務長官には、現時点で疑惑の話はない。
これからトランプ大統領は、疑惑の対応に時間と労力を割かざるを得ない。来年秋には中間選挙があり、内政に力を入れ挽回を図ろうとするだろう。だが、内政で成果が見込まれないと対外行動で強硬に打って出る可能性もある。外交面では中東や対中・北朝鮮問題が当面の焦点となろう。
一方プーチン大統領は、トランプ政権が公約した対露関係改善政策を取ってないことに失望しているとの説もあるが、オバマ政権までの対露政策を考えるに、事はそう簡単にいかないことは百も承知のはずだ。米国社会が分断され、政治不信が漂っていることに、日頃から語ってるように民主主義は各国各様で、ロシアではこんな状態にはならないとうそぶき、隙あらばの姿勢を崩さず、表向きは静観を装い見守っている。
(いぬい・いちう)