反基地活動家ら不満噴出「知事に本気度感じられず」
辺野古移設の海上工事始まる、ワシントン訪問の成果なし
米軍普天間飛行場(宜野湾市)のキャンプ・シュワブ(名護市辺野古)沖への移設に伴う海上埋め立て工事が本格的に始まった。翁長雄志知事は、辺野古移設反対を訴えるために米ワシントンを訪問したが、成果はなく、基地反対派の不満を増長させる結果となった。(那覇支局・豊田 剛)
岩礁破砕許可の権限使えず、危惧される「政府とのパイプ役」
キャンプ・シュワブ沖では6日、汚濁防止膜の設置作業が始まった。7日、汚濁防止膜を海中で固定させるためのコンクリートブロックが投入された。ブロックの重量は約12㌧で、228個。作業には約2カ月を要する。
沖縄防衛局の計画によると、5月には作業ヤード整備、護岸新設に向けた土砂が投下される。引き続き、年内にも、土砂を取り除き水深を維持する浚渫(しゅんせつ)工事に取り掛かり、遅くとも来年までには埋め立て工事に着手する。
埋め立て工事自体は、2021年に終了することを想定している。その後、駐機場建設や支援施設の整備などを経て、25年にも供用を開始すると米軍側は見積もっている。
「あらゆる手段を使って『新基地建設』に反対する」と公言する翁長氏に残されたカードの一つは、知事権限の行使だ。その一つが、埋め立て工事に伴う岩礁破砕許可である。ところが、名護漁業協同組合がこのほど、漁業権の一部を放棄したことで、3月末に期限を迎える岩礁破砕許可更新の必要がなくなった。
翁長氏は、埋め立て承認の「撤回」、辺野古移設の是非を問う「県民投票」の実施については明言を避けている。
政府も知事が移設工事を妨害しないようくぎを刺す。
「21年前に、当時の名護市長も沖縄県知事も同意して辺野古への移設が決まった経緯がある。そして10カ月間工事を中断し、国と沖縄県は和解条項に基づいて協議し、昨年12月の最高裁判所の判決で国の主張が全面的に認められた」
こう述べた菅義偉官房長官は、「我が国は法治国家であり、最高裁判決や昨年3月の和解の趣旨に従って、国と沖縄県双方ともお互いに協力して誠実に対応し、埋め立てを進めていくことになる」とし、知事権限は必要ないとの見方を示した。
一方の翁長氏は今月上旬、「辺野古『新基地建設』を断念させる目的」で米ワシントンを訪問したが、成果はなかった。翁長氏は国務省のヤング日本部長、リベラル系の下院議員、シンクタンクの研究員らと面会したが、いずれも決定権のない人物ばかりだ。
訪問する先々で「移設には15年、20年はかかる」と述べ、移設阻止にはさまざまな知事の権限があると訴えたが、「解決済み」として事実上、門前払いを食らったのが実情だ。
2日、翁長氏はトランプ大統領を含む各国の政治家らが出席したホテルでの朝食会に出席し、ティラーソン国務長官と接触した。地元紙によると、握手して自己紹介をするだけだったという。「たとえ短時間でも、本気で基地建設に反対するならば何らかの意思表示はできたはずだ」と自民党県連幹部は指摘する。その一方で、訪米中に、反基地活動家らとパーティーでカチャーシー踊りに興じている様子がSNSで伝えられている。
キャンプ・シュワブのゲート前では海上工事が始まって以来、反基地活動家らによる激しい抗議活動が続いている。抗議活動に参加する人々の一部から、翁長氏には「『新基地建設』阻止の本気度が感じられない」と不満が噴出している。翁長氏が昨年、北部訓練場のヘリコプター離着陸帯の建設工事の警備で、県外からの機動隊派遣を認めたことも不満の一因だ。
教職員人事・採用の口利き疑惑で安慶田光男副知事が辞任したことも、活動家らの県政不信に拍車を掛ける結果となっている。安慶田氏の後任に元沖縄国際大学学長の富川盛武氏(69)が起用される。富川氏は県政策参与として、仲井真弘多前知事が描いた沖縄発展のための経済戦略構想を引き継いでおり、経済が専門だ。
そのため県は、基地問題に特化して知事および副知事を補佐する「政策調整監」を新たに設け、元金武町長で元県議の吉田勝広氏(72)を充て、不在となった政府とのパイプ役を務めさせる意向だ。吉田氏は昨年の県議選では落選した上、社民党系で革新色が強い。保守系県議からは、「安慶田氏の代役が務まるとは思えない。政府との対立がますます先鋭化するのでは」と危惧する。
こうした中、12日に投開票された浦添市長選で、保守系の松本哲治氏が翁長氏の推す候補に大差をつけて再選された。翁長氏が移設反対の後ろ盾としている「民意」を失いつつあり、普天間飛行場の辺野古移設が加速する可能性が出てきた。