トランプ米新大統領の特異性
「米第一」憂慮し過ぎるな
日本はより積極的な関与を
はじめに 大統領就任式(1月20日)前の1月15日トランプ氏はドイツの大衆紙ビルトのカイ・ディクマン氏とイギリスのタイムズ紙のマイケル・ゴーヴ氏のインタビューを受けた。それは包括的で、しかも示唆に富む内容であった。以下その要点を紹介し検討しよう。
メルケル・ドイツ連邦首相の難民政策は壊滅的な瑕疵(かし)!
メルケル首相は、不法者を含む難民を自国に受け入れることによって極めて壊滅的な失敗をした。ドイツは、自国に難民を受け入れる代わりにシリア内部に安全地帯を設定し、このための維持費を支出し、湾岸諸国にもそのための出費を促す方が賢明であった。
〈示唆に富む提案だが、実現の可能性は低い。なぜなら難民発生の原因は内乱ばかりか国内テロにもあるからである〉
欧州連合(EU)は、ドイツにとって目的のための手段にすぎない!
EUの役割について言えば、EUは、ドイツにとって目的のための手段にすぎない。だからイギリスの離脱(BREXIT)は、賢明なことであった。イギリスに続いてさらなる国々が離脱するであろう。人も国も自らのアイデンティティーを求める。アメリカにとって、EUが統一しようが分裂しようが大したことではない。部分的にEUはアメリカに打撃を与えるために創設されたのである。
〈欧州の戦後の平和構築を目指すEU実現の努力を全く無視する極めて一面的な暴論である〉
BMWのメキシコ工場からのアメリカへの自動車輸出には35%の関税を掛ける!
BMWであれ、トヨタであれ、あるいはゼネラル・モーターズであれ、メキシコからのアメリカへの自動車輸出には35%の関税がかけられる。フオードは既にメキシコではなく、アメリカへの投資計画を公表した。アメリカの道路ではよくベンツが見られる。しかしドイツの道路ではシボレーがほとんど見られない。これは相互主義に基づいていない。私は原則的に自由貿易に賛同しているが、自由貿易であっても万難を排して実現するものではない。賢明な貿易はフェアでなければならない。
〈数十年前の日米貿易摩擦を思い出させる。当時は議会が主役であったが、現在は執行府が主役のようなので、より始末が悪い〉
北大西洋条約機構(NATO)は時代遅れ!
NATOは時代遅れだ。なぜなら何十年も前に企画され、テロ対策を有していないし、欧州のメンバー諸国は安全が保障されているが、それに見合う出費をしていないからである。この態度はアメリカに対してフェアではない。とは言ってもNATOが非常に重要である事実は認める。
〈NATOに関するトランプ氏の発言は、トランプ政権の閣僚、とりわけ国務長官と国防長官の議会公聴会の発言と比べても特別奇異な印象は与えていない。日本に対する軍事出費増額要求に関しては、NATO欧州メンバー諸国に対すると同様、あるいはそれ以上の圧力がかけられる蓋然(がいぜん)性が予測される〉
私はイギリスの大ファン!
私はイギリスの大ファンだ。私はホワイトハウスでの仕事の開始とともにイギリス首相と会って将来の協力について話し合う予定である。イギリス・ポンドの価値が減ずれば、大変結構なことだ。それはイギリス製品が売れることを意味している。
〈アングロアメリカの伝統的友好関係の再強化の再来が予測されるか? トランプ氏のイメージの中ではEUはアメリカのライバルで、従ってイギリスの離脱によるEUの脆弱(ぜいじゃく)化がトランプ氏にとって喜ばしいことになる。しかし、そこでは同時に自由世界の脆弱化も意味している事実に気が付いているのだろうか? まとまりのない、しかも離脱によって弱体化したEUを同胞とするアメリカが全体主義・権威主義陣営に有効に対峙(たいじ)することが可能となるか、その方がより深刻である〉
おわりに これまでのアメリカ大統領選挙の中での異例中の異例は、メディアの圧倒的多数を敵にして、しかもトランプ氏が勝利した事実である。世界は、自由民主主義国家で選挙手続きを通して大統領に選出されたトランプ氏のアメリカと少なくとも4年間は、お付き合いを続けざるを得ない。その際には、なかんずく以下の新たなアメリカの傾向を考慮に入れることが必要となろう。
アメリカ第一主義 それ自体は過剰憂慮する必要がない。アメリカ第一主義とはつまり国益重視と理解することが可能である。いかなる主権国家であっても国益を重視しない国は無い。これが原則論にとどまる限り実害が予測され得ない。ところがこの原則が具体的な政策に反映されるならば、事は深刻になる。例えば、自動車の輸入関税35%、環太平洋連携協定(TPP)離脱、北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉、等々がこれである。
しかし、このような具体的政策であっても、アメリカが自由民主主義、法治国家並びに国際法を重視する陣営にとどまり、そこでリーダーシップを発揮する意欲を持ち続ける限り、解決が不可能ではないと考えられる。従って日本は、自由世界の強化のために、防衛支出増を含めてより積極的に関与する必要があろう。
(こばやし・ひろあき)






