激動の16年、中国はどう見た?
米新政権誕生を最重要視
新華社10大ニュースから分析
2016年は激動の年であり、実際、米大統領にD・トランプ氏当選を筆頭に、年初から台湾での蔡英文(民進党)総統選出、北朝鮮の2回におよぶ核実験や各種ミサイル発射の強行、中国の南シナ海での埋め立てや軍事基地化がハーグ仲裁裁判決で否定、同海域での米海軍の自由航行作戦による緊張、韓国の朴大統領の弾劾決議など、東アジアでの安全保障環境は振り回されてきた。
その背景にはパワーの地殻変動があり、南シナ海での中国の「力による現状変革」を制する米抑止力の低下が挙げられよう。さらにトランプ政権発足によって米国益が中心となり同盟関係の変質や大国関係の変化が予測され、米中両国にロシアも絡んだ軍事大国の関係が緊張してくる。すなわちトランプ新大統領は米第一主義で内向きになり、グローバル覇権から多極化への移行を容認するのか、引き続き米国による覇権の維持を追求するのか、が焦点になるとともにそれへの中国などの対応も注目される。
この観点から中国は激動する国際情勢をどのように見たか、16年の10大ニュースから探っておこう。中国では年末に国営通信社・新華社が選定した「中国内外10大ニュース」を発表しており、それは民意の統計的選定ではなく政府を代弁する通信社が選定したものであり、その分だけ習近平政権の見方に直結している。なお新華社の10大ニュースは事件発生順に列挙されたものでニュース価値の軽重判断は避けている。
まず国際関係の10大ニュースとして、第1に習主席が昨年1月に中東3カ国を歴訪したことから「①中国の特色ある大国外交を全方位に推進」と中国の主権・権益を守る大国外交の成果を挙げている。以下「②朝鮮半島情勢の不確実性の増大③シリアの平和交渉がロシア・西側対立で前途に暗雲④欧州の多くの国が重大テロ襲撃に遭遇⑤英国民投票による『EU離脱』決定で世界が震撼(しんかん)⑥中比が南シナ海問題で話し合いの軌道に戻る⑦クーデター未遂でトルコと西側の関係が冷え込む⑧人民元が『SDR入り』で通貨体系の整備を後押し⑨トランプ氏が米大統領選挙で勝利⑩キューバ革命指導者F・カストロ氏の逝去」と続いている。
このように習政権の関心事を網羅的に挙げてはいるが、昨年7月に出されたハーグ仲裁裁判決など自国に都合の悪いニュースは無視し、⑥のようにドゥテルテ大統領の訪中でスカボロー礁の共同使用など南シナ海問題の話し合いの成果にすり替えている。また自らの責任に関わりそうな事案②③は客観的論評を装い、さらに南シナ海の米中接点における厳しい軍事的な対決や東シナ海での日中間の緊張事態は伝えていない。
さらに10大ニュースの選定には、秋の党大会という最大イベントを控えて、国外ニュースでも習政権プレイアップが「先にありき」で、不都合な事実はネグレクトし、都合の良い解釈と選択をしているのが鼻につく。習政権が何を重視しているかは推測になるが、⑨のトランプ大統領の誕生が最大の関心事項であろう。実際、トランプ氏は選挙戦中から中国に対して厳しい姿勢を示しており、重要閣僚の人事などからも米中角逐の強化が予測されている。何より中国にとって最たる核心的利益の「一つの中国」問題を米中関係の取引に使おうとするトランプ流対応には強く反発しており、新年早々から蔡総統の中南米訪問途次のトランジットで滞米中の行動などにも神経を尖(とが)らせている。
また今後は②北朝鮮の挑発への対応や③シリア和平問題などへの応分の責任ある対応が求められよう。経済面では中国はこれまで世界のグローバル化の潮流に乗って対米貿易を伸ばすなど「いいとこ取り」をしてきたが、中国は貿易面でも正面からトランプの反撃を受けることとなろう。特に中国経済が外貨準備高も3兆㌦を割るなど停滞趨勢(すうせい)にあって、⑧人民元の「SDR入り」に伴う中国の責任が追及されることも予想される。
ちなみに16年の「国内10大ニュース」でも、秋の党大会に向けて共産党独裁体制の正統性や執政の正当性が露骨に強調されている。ニュースの第1には、昨年初に出された「共産党員に対する綱紀粛正の全面展開の号令」が挙げられている。以下「②共産党創立95周年の祝賀行事③G20サミット開催成功④遼寧省の全人代不正選挙を厳しく処分⑤長征勝利80周年記念と長征精神の受け継ぎ宣言⑥18期6中総で党の『核心』確立⑦全人代で香港基本法の解釈権の行使⑧財産権を保護する制度整備⑨最高裁が聶樹斌さん死刑判決を再審で無罪に⑩安定の中で前進を求めるが国際運営の重要原則」と続いた。
このように、「国内10大ニュース」も国民・国家のニュースと言うより①②⑤⑥など共産党にとっての10大ニュースの感じで、それだけ習政権は統治体制の立て直しに危機感を感じている実態が浮かんでくる。また法治が強調される中で、④⑧⑨など政治・司法の不備を暴くなど迎合的なパフォーマンスが目立っている。さらに国家統一への危機感から台湾の政変などを踏まえて③⑦が挙げられ、経済低迷の不安については重要でありながら不都合な問題は無視されている。
このように中国は昨年の国内外情勢を統治上の危機意識から観ており、本年も累積される国内課題や、トランプ・リスクにどう対応するかが注目され、特に激化する米中関係への対応で習政権は正念場を迎えることになろう。
(かやはら・いくお)











