トランプ外交 中国の脅威、米軍再建で対抗
国際評価戦略センター上級研究員 リチャード・フィッシャー氏(上)
トランプ政権の外交・安全保障政策は孤立主義的になるのか、それとも指導的役割や国際協調を重視する政策になるのか。

リチャード・フィッシャー氏 米ヘリテージ財団アジア研究部長、米議会の諮問機関「米中経済安全保障調査委員会」顧問などを経て現在、国際評価戦略センター上級研究員。中国人民解放軍やアジア軍事バランスの専門家として知られる。
トランプ次期米大統領が外交政策を転換させる考えを持っていることは、政権移行の過程ではっきりしている。それはトランプ政権による孤立主義時代の前兆ではなく、米国の国益を積極的に防衛し、同盟国とのより大きな協力を進めていくものだ。
トランプ氏の政策に中国が慣れる必要があるという意味では、短期的に不安定になるかもしれない。ただ、長期的に見ると、トランプ政権は米国の同盟国、特にアジアの同盟国にとって非常に良いものになる。
トランプ氏は「米軍再建」を訴えている。
トランプ政権は米軍再建を進める中で、ロシアや中国によって米国の軍事的利益がどのように脅かされているか理解し、極めて厳しい評価を下すだろう。核バランスや空軍力のバランスで脅威が拡大していると判断すれば、それらを是正する方針を取ると考えられる。
トランプ政権はアジアへの軍事的関与を強めるのか。
オバマ政権とは対照的に、トランプ氏はアジアや世界で米国の国益を守ろうとしている。これには軍事的な強化だけでなく、同盟国との協力も必要になる。
トランプ氏が米軍再建を約束したことは「アジア・ピボット(基軸移動)」戦略の観点から期待できる。トランプ政権はピボットの約束を果たし、さらにアジアにおける中国の攻撃的姿勢や敵対的意思を押し返す方向に進む可能性がある。
トランプ氏は「一つの中国」政策に縛られる必要はないとしている。米中関係に劇的な変化はあるのか。
トランプ氏は中国の脅威を認識しており、米中関係を再構築するだろう。トランプ氏は「一つの中国」政策を暗に認めることで中国が大きなアドバンテージを得ていると不満をあらわにしている。
中国は台湾の民主主義を破壊し、軍事的優位に立つため台湾を手に入れたがっている。米国は中国の脅威に対して台湾が自衛できるよう支援する必要がある。
中国が南シナ海で軍事施設を建設する狙いは。
南シナ海への各国のアクセスを海上、海中のほかに空からもコントロールすることが中国の狙いだ。
また中国は幾つかの重要な戦略上の理由から南シナ海を支配したがっている。まず、弾道ミサイル搭載潜水艦が増えているため、南シナ海を自国の湖に変えたがっている。第二に、空母と艦隊を世界のシーレーンにアクセスさせ、中東、そしてそれ以上の地域に戦力投射しようと考えている。第三に、海南島を最新の衛星打ち上げ施設として、また主要な宇宙戦略の拠点として防衛する目的がある。
中国の強引な海洋進出を防ぐために米国はどうすべきか。
昨年7月に出されたオランダ・ハーグの仲裁裁判所判決を利用して、中国が埋め立てた違法な島を取り除き、南シナ海の戦力を中国本土に戻させる政治キャンペーンに取り掛かる必要がある。そうした行動を進めると同時に、戦略的に重要な海域である南シナ海を管理し、中国の軍事支配を阻止する方法を見つけ出さなければならない。
(聞き手=ワシントン・岩城喜之)