中国権力闘争の行方、最後に笑うのは胡錦濤氏


2016 世界はどう動く-識者に聞く(23)

評論家 石平氏(上)

「ハエもトラもたたく」という反腐敗運動をてこに、習近平政権が江沢民派を追い落としつつある。

石平氏

 せき・へい 1962年中国四川省生まれ。北京大学哲学部卒。88年来日し、神戸大学大学院博士課程修了。民間研究機関を経て、評論活動に入る。『謀略家たちの中国』など著書多数。平成19年、日本国籍取得。

 最後に笑うのは胡錦濤前主席だ。

 今の時点で習主席がやっていることは、胡氏たちが天下を取るための大掃除に過ぎない。昔、胡政権にとって一番の邪魔者は江氏だった。10年間、いじめ抜かれた胡氏ほど江氏を憎んでいる人はいない。

 その番頭格が摘発された。習氏が摘発しているのは胡氏の政敵であって、別に習氏自身の敵ではない。それで江沢民派を追い詰めたことで、政権の中で影響力を増しているのは胡錦濤派(共青団派)だ。

 しかも、腐敗摘発で恨みを買うのも習氏だ。胡氏とすれば自分の手を汚さなくて済むメリットがある。

胡氏は軍を本当に掌握しているのか。

 引退したはずの胡氏がなぜ、現役の習主席を操り腐敗摘発運動を主導することができたかというと、人民解放軍を握っているのは胡氏だからだ。

 自分の政権時代の10年間、江沢民元主席に軍を握られ、散々虐げられた胡氏は、現在、軍を掌握することによって「第2の江沢民」になっている。

 胡氏による軍掌握は2012年10月にさかのぼる。この年、11月の第18回共産党大会を控えた前月、胡氏は引退間際に中央軍事委員会主席の権限で人民解放軍の新しい総参謀長を任命した。それが現在の胡錦濤派の房峰輝総参謀長だ。江沢民が引退間際にやった人事をそのままコピーしたのが胡氏で、軍の作戦を担当する重要ポストの総参謀長に房峰輝を抜擢(ばってき)し、軍掌握を図るための布石を打ったのだ。

 胡氏はそれだけでなく同年11月4日開催の中国共産党中央委員会で、軍人の范長龍と許其亮の両名を党の軍事委員会副主席に任命した。

 自分の引退が決まる党大会開催の4日前に、中央軍事委員会の最重要人事を自分の手で行った。習主席が軍事委員会主席に就任した時、既に周辺は「胡錦濤派の軍人」によって固められていた。

 さらに重要なことは、現在、中国共産党の最高意思決定機関である中央政治局常務委員会の7人のメンバーのうち、4人が江沢民派で占められているもののいずれも高齢で来年の共産党大会で引退する。習の盟友である王岐山氏も69歳で留任は難しい。となると年齢的には習(62)と李克強(60)以外の5人が退任し入れ替わる。

誰がその穴を埋めるのか。

 それは多数派の胡錦濤派の幹部が常務委員に昇格することになる。胡氏が軍を握ったままの状況下なら、ほぼ間違いない。

 一方、現在の政治局委員の中で習派といえるのは栗戦書氏(65)くらいしかいない。ここで、胡錦濤派の政権戦略が鮮明になってくる。つまり、今の習主席たちと手を組んで江沢民派を一掃し、江沢民の影響力を一掃した上で、党大会において軍の支持をバックに団派の若手幹部を政治局から大量に昇進させ常務委員会を一気に掌握するのだ。

 そうなれば、そのまま胡氏の天下となる。これが胡氏と団派が目指す天下取りのシナリオだ。結局、習主席の腐敗摘発運動は、胡氏の「天下取り戦略」の露払いでしかなく、最後に高笑いするのは胡氏という江氏以上の狸(たぬき)親父なのだ。

 中国は21世紀の今でも「三国史」の世界に生きている。

(聞き手=池永達夫)