イラン核合意、中東核戦争の可能性高める-元米CIA長官
2016 世界はどう動く-識者に聞く(2)
元米CIA長官 ジェームズ・ウールジー氏(下)
イラン核合意をどう評価する。
米国が今まで署名した合意の中で最悪を競うと言っていいほどひどいものだ。もし一番でなければ、少なくとも二番か三番目にひどい合意と位置付けられるだろう。査察体制が全く不十分で、イランの核保有を容易にするものだ。
極めて深刻な問題は、合意が核拡散を助長することだ。シーア派国家のイランが核保有に向かっていると映れば、サウジアラビアやトルコなど他の中東諸国も核保有に動くだろう。
スンニ派とシーア派の間には1000年以上の憎悪の歴史がある。小さな領土をめぐって争うといった一般的な対立とはわけが違う。国民同士が宗教的情熱に基づいて憎しみ合う国々の対立なのだ。次に起こる重大な中東危機は、核をめぐるものとなるだろう。
中東で核戦争が起きる可能性があるということか。
それは恐ろしいシナリオであり、起きないことを望む。だが、イラン核合意によってその可能性は低下するどころか、むしろ高まってしまった。
北朝鮮の核開発をどう見る。北朝鮮は既に核兵器を小型化し、米本土を攻撃できる能力を有しているとの分析もあるが。
北朝鮮が核兵器の小型化に成功したかどうかは分からない。だが、大型の核兵器でも米本土を攻撃することは可能だ。米国の上空で核兵器を爆発させ、電磁パルス(EMP)で電力網を破壊するのだ。
これは衛星を軌道に乗せるのと同じように、核兵器を軌道に乗せて爆発させるだけだ。大気圏内に再突入させて特定の標的を狙うわけではないため、精度を高める必要がない。これは深刻な脅威だ。
電磁パルス攻撃にどう備えたらいいか。
最善策は電力網の強靭(きょうじん)性を高めることだ。米議会諮問委員会の見積もりでは、必要な経費は約20億㌦(約2400億円)で特別高額なわけではない。国防予算の中ではわずかな額だ。だが、対策は進んでいない。電磁パルス攻撃は日本にとっても脅威だ。
NBC(核・生物・化学)テロが起きる可能性は。
「ダーティー・ボム(汚い爆弾)」の原料となる放射性物質は手に入りやすい。ダーティー・ボムで都市を吹き飛ばすことはできないが、大量の核物質をまき散らして広範な地域を居住不可能にしてしまう。ニューヨーク・マンハッタンで使用されたら大変なことになる。
化学兵器が人を殺害するのは確かだが、除染が可能だ。化学兵器より厄介なのが生物兵器だ。人と人の接触を通じて拡散する。比較的単純な生物兵器なら、テロ組織でも開発できる。例えば、2001年の同時テロ直後、米国の研究室で製造された炭疽(たんそ)菌が封筒で送りつけられる事件が起き、恐怖を巻き起こした。生物兵器には製造が極めて難しいものもあるが、残念ながら炭疽菌は難しくない。
NBCテロのうち、最も怖いのが核、次に生物、そして化学の順だ。
シリア難民問題に米国はどう対処すべきか。
米国は自由を擁護する国家として世界中から難民を受け入れている。だが、シリア難民には過激派組織「イスラム国」(IS)がテロリストを潜り込ませている可能性が高いという事実を無視するわけにはいかない。従って、親のいない幼い子供や老人、病人ら危険性が低く、人道支援の必要性が高い人々を優先し、大量の難民受け入れには慎重であるべきだ。
我々が早くISに軍事的に勝利しなければならない理由の一つは、シリア国民が欧州や米国にやって来る必要のない平和な状況をつくり出すためだ。シリア国内に「安全地帯」を設けるのは良い考えであり、推し進めるべきだ。
(聞き手=ワシントン・早川俊行)











